ドラマ

ソン・ガンホが国家を相手に戦う!「弁護人」(2013)

2019-11-06

検察も裁判官も、主任弁護人さえ国家の手先だ! 誰も味方がいない中、男はたった一人で大きな権力に立ち向かう。

作品情報

●評価 4.0★★★★
●制作 2013年
●上映時間127分
●原題 변호인(弁護人)
●英語題 The Attorney
●監督 ヤン・ウソク
●脚本 ヤン・ウソク
●出演
 ソン・ガンホ、キム・ヨンエ、オ・ダルス、カク・トウォン、イム・シワン(ZE:A)、ソン・ヨンチャン、チョン・ウォンジュン、チョ・ミンギ、イ・ハンナ、イ・ソンミン、チャ・グァンス、ハン・ギジュン、シム・ヒソプ、チョ・ワンギ、チャ・ウンジェ、リュ・スヨン他

あらすじ

1978年釜山、ソン・ウソクソン・ガンホ)は大田の(テジョン)の裁判官を退職する。高卒の彼には学閥世界の裁判所は窮屈な世界であった。妻一人、食べ盛りの子供が二人いた。ウソクは、弁護士になって貪欲に金を稼ごうと思った。釜山で弁護士事務所を開き、まずは不動産登記に目をつけた。80年代に入り、不動産投資がブームになり、ウソクの事務所は不動産登記業で右肩上がりに業績を伸ばす。

巷では学生デモが日常的に起こっていたが、ウソクは事務所を大きくすること以外に関心を示さず、不動産登記が下火になると、今度は税務分野に手を広げていく。宣伝コピーは「あなたの税金守ります!」ウソクの元にはたくさんの依頼が舞い込み、釜山一多忙で稼ぎのいい弁護士事務所に成長していく。

ある晩、ウソクは仲間と連れ立って、馴染みにしているテジクッパ店で酒を呑み交わすが、学生デモのことで新聞記者のユンテクイ・ソンミン)と大喧嘩になる。学生デモを国家に逆らうくだらない違法行為とウソクは切り捨てるが、ユンテクは国家権力によってテレビや新聞が検閲され、市民が真実と遮断されていることに大きな危機感を感じていた。金儲けにばかり夢中になっているウソクとの間には大きな壁があった。

数日後、ウソクはテジクッパ店の息子ジヌイム・シワン)が行方不明になっていることを知る。母親で店主のスネキム・ヨンエ)は休店して、一か月間も息子を探し回っていた。

警察からスネに連絡が入る。ジヌが国家保安事件の被疑者として取り調べを受けており、数日後に裁判が始まることを知らされる。スネに息子の弁護士になってほしいとウソクは哀願されるが、大手建設会社の専属弁護士になることもあり、デモには関わりたくなかった。

面会に連れ添うだけならと、スネと一緒に拘置所を訪れるが、ジヌの変わり果てた姿に驚愕する。体には拷問を受けた痕が無数に残され、目はうつろで、怯えてきって話もできない有様に、自分たちの知らないところで大変なことが起きていることに、ようやく気がつく。

ジヌが何をしたというのだ。一人の人間をここまで痛めつける国家権力とは何なんだ。平和な市民に牙をむきだした国家権力に大きな疑問を抱きはじめるウソク。ジヌたち学生が読書会で読んでいたとされる本を徹夜で読み漁り、調べていく内に、彼らたちの無実を確信していく。

ジヌたちの弁護人を引き受けたウソクだったが、裁判所では、主任弁護人も裁判官も検察官も国家の手先であることを知る。四面楚歌の中、ウソクだけが被告人を無罪にしようと全身全霊をかけて弁護する。孤立無援のウソクは、はたしてジヌたちの無罪を証明できるのか!?

80年代の韓国、民主化運動を弾圧するために、多くの市民が全斗煥政権率いる国家保安部により共産主義者とレッテルを張られ、人権を蹂躙されたことは人々の記憶に依然生々しく残っている。この映画は、時代を問わず暴走する国家権力に警鐘を鳴らす社会派の作品である。



※ここから先はネタばれを含みます。未だ御覧になっていない方は読まないことをお勧めします。


1981年の釜山。故盧泰愚大統領の逸話がベース

素晴らしい映画でした。
感動を呼んで止まなかった。

主役ウソク弁護士を演じたソン・ガンホは、この作品で青龍映画賞で男優主演賞(2014) を受賞し、テジクッパブ女主人を演じたキム・ヨンエも、同賞で女優助演賞を受賞している。
ソン・ガンホは、この三年後の2017年にも民主化運動をテーマにした「タクシー運転手」で運転手マンソプを熱演し、なんと再び、同賞で男優主演賞を受賞している。

(※2017年4月9日、キム・ヨンエさんはすい臓がんでご逝去されました。病魔と闘いながら、最後まで役者として復活することを望んでいたという。2012年すい臓がんの手術をされた直後、この「弁護人」で復活。公安に連行された息子のために猛然と闘う強い母親役を演じられました。心から感謝。)

左)ソン・ウソク弁護士(ソン・ガンホ)    右)スネ(キム・ヨンエ)

1980年代、韓国各地で起こった民主化運動をテーマとした作品にたいしては依然人々の関心も高く、映画はヒットする傾向にある。1200万人以上を動員した「タクシー運転手」(2017、8月、光州市)、「1987年 ある闘いの真実」(2017、12月、ソウル)は700万人以上、そして本作「弁護人」(2013、釜山)は1100万人以上を動員した。権力の横暴にたいする韓国の人々の怒りが伝わる作品たちである。

この3つの映画はそれぞれベースになる事件があるが、本作は1981年、釜山で起こった釜林事件をベースとしており、その弁護を担当した故廬武鉉大統領をソン・ガンホが熱演している。

貧しい高卒の人間が、就職もできず、独学で司法試験に合格して法曹の道を歩んでいくという、日本で言えば木下藤吉郎のような、苦労人成上がり人生に一見わくわくするが、主人公ウソクはその後、金儲けとは程遠い命さえ危険にさらす裁判活動に携わっていくことになる。

80年代の韓国軍事政権による学生・一般市民弾圧の罪責は大きい。全斗煥政権の下、民主化運動を弾圧せんと、罪のない人たちを共産主義の扇動家とみなし、令状なしで逮捕連行しては拷問にかけて有罪とした。

1981年の釜林事件はソウルの学林事件をもじったものであり、当時、釜山で起こった最大の公安事件とされる。釜山在住の22人の学生や社会運動家がそれぞれ不法集会を開き、有害書籍を回覧したとして国家保安法違反に問われたものであるが、後世では、その実体は公安による捏造弾圧事件として繰り返し批判されている。wiki 釜山事件

金儲けにのめり込んでいたウソクが人権弁護士へ。感動した軍医の証言!

感動その1.  ウソク弁護士の奮起。人権弁護士へ脱皮

この映画、感動した場面が大きく二つある。
まずはじめに、裁判官を辞めて弁護士に鞍替えし、金儲けにのめり込んでいたウソク(ソン・ガンホ)が、金儲けとは縁の遠い人権弁護士へと脱皮していくところである。

タクシー運転手」でもそうだったが、初めは世の中のことに無関心で、学生デモにたいして批判的だった主人公が少しずつ真実を知り、真正面から巨大権力に立ち向かっていく姿は、拍手喝さい! まことに圧巻である。大抵の人間は、真実に気がついても目をふさぎ頭を垂れて、大風が止むのをひたすら待つだろう。

ウソクの弁護を止めさせようとするトンホ

事務長トンホオ・ダルス)も、裁判に関わってはいけないとウソクを止める。せっかく事務所の経営が軌道に乗り、大手建設会社の顧問弁護士の道も開かれようとしている。そんな時に学生デモの裁判に関わるのは自殺行為だ。
トホクはウソクに、人生はタイミングだ。目の前に8車線の道路が開けたのに、あんたはアクセルではなく、ブレーキを踏む気か?!とつめよる。

ウソクはしばらく考えた後、
この弁護がブレーキになるような世の中に自分の息子(ゴヌ)を住ませたくないんだ。あんたも息子がいるなら分かるだろう」と優しく返す。

この裁判の途中、ウソクの家には不審な電話がかかり、妻や子供の身の危険が案じられたが、それでもウソクは弁護を止めなかった。相手は、国家情報院である。脅しは嘘ではなかっただろう。

故廬武鉉大統領が、当時このような脅しにひるまずに人権弁護士として命をかけて弁護活動をしたのかと思うと、心から感動する。なんとその弁護士仲間には文在寅(第19代韓国大統領)もいて、無料で学生たちの弁護を引き受けたのだという。

この映画が製作された2013年は、朴槿恵大統領が誕生し、保守が政権を握った年である。しかし、国民の言論、とくに文化業界の言論に圧力をかけた保守政権の姿は、民主化運動を弾圧した軍事政権を彷彿させ、その他政治的失態もあって、国民の大きな反発を招く。

結果、文在寅率いる野党が国民の圧倒的支持をとりつけ、政権を奪取することになるが、保守と野党、どちらが政権の座につこうとも、国家権力はつねに国民の言論を封じ、独裁体制を築こうとしているのに変わりがないことを韓国国民はもっと気づくべきであろう。(失礼。この部分は余談であった)

感動その2. 映画に登場する陸軍の軍医官による証言

軍による拷問を、職と賭して告発するユン中尉

映画では、してやったり!とぞくぞくしたのだが、裁判後半、万策尽きたウソクに、拷問された被疑者たちを医療看護したユン中尉シム・ヒソプ)が助け船を出した瞬間である。なんと、軍の医官が、心を奮い立たせて弁護人側の証人として出廷し、確かに「拷問があった」と軍に反旗を翻すのである。

この証言で一気に流れは変わり、本起訴は公安事件としてではなく「拷問による人権蹂躙」として検察側敗訴ということになる(予定だった)。

こんな良心的な人間が当時の韓国軍にいたんだ?!

と私は大変感動したのだが、どうやら実際の釜林事件ではこういう感動的などんでん返しは一切なく、起訴されたほとんどの被告人は淡々と有罪になっていったそうだ。中尉の法廷証言はフィクションに過ぎないが、映画はエンターテイメントである手前、この演出がなければ長い裁判シーンで観客の関心はひきつけられなかっただろう。映画は、最後、史実と違わずきちんと弁護人敗訴で終わっている。

ジヌたちを無罪にできなかったことで、がっくりと肩を落とすウソクの姿が痛々しかった。裁判としては確かに負けてしまうのだが、この事件を機にウソクはますます政治運動に身を投じていく。その後、不穏集会の罪でウソク自身は起訴されるが、映画では、法廷で彼を弁護したいという数十人の弁護人の名前を裁判官が読み上げていくことで、彼の残した功績に敬意を表して終わっていく。

確かに、結末はハッピーエンドではなかったが、映画が史実を取り扱う以上、現実を無視した荒唐無稽な形で終わっていかず、現実を示しながらも、希望を残した形で締めくくったことが本当によかったと思う。

2014年、33年ぶりに開かれた釜林事件の再審では、請求した5人全員に無罪判決が言い渡されている。廬武鉉大統領は2009年に岩山から自殺したが、この釜林事件の再審結果を聞かせてあげたかったと心底思う。残念だ。

参考:韓国映画「변호인(弁護人)」にまつわる実話とフィクションの違いについてNo.1 by oulmoon

民主化運動を弾圧した側への疑問

私が勉強不足なだけなのだろうが、調べてもよく分からなかったことがある。

それは、80年前後の民主化運動を軍事政権が弾圧した時、弾圧した国家権力側は、はたしてほんとうに北朝鮮への脅威を感じて、学生や一般人を共産主義扇動者として逮捕したのか?ということである。もしくは、民主化運動を弾圧するその一点の理由のためだけに、口実として「共産主義扇動者」というレッテルを使ったに過ぎないのだろうか?

映画では、チャ・ドンヨン警監カク・トウォン)が、「俺たちがいるから(北の脅威があっても)あんたたちが枕を高くして寝られるんだ。あんたにできる愛国は何だ?」とウソクに迫るシーンがある。

なるほど、映画においては、政権側は北朝鮮への脅威をしみじみと感じとっていた雰囲気があるが、本当のところどうだったのかだろう?と疑問に思う。それでも拷問は許されるものではないが、共産主義的思想に真剣に脅威を感じていたのか否かは民主化運動弾圧の本質を知る上で非常に重要だと思った。

今作の名言! by ジヌ(クッパブ店主スネの息子)

ジヌ(イム・シワン)

「デモなんかしても世の中は変わらない。
 卵を投げつけても岩は壊れない」


 と学生デモを否定するウソク(ソン・ガンホ)に対し、ジヌが放った言葉。

「岩は固くても、死んだもの。
だが卵は生きている。
卵は鳥になり、やがて岩を超えてゆく」

・ 
ウソクは社会人であるにもかかわらず金儲けにばかりに気を取られて、政治に関心をもっていない。一方、ジヌは学生だが、政治の不穏をよみとり、危機感を感じている。
二人の考えに温度差があるのは当然だが、同じ卵に希望を込めて語るジヌの言葉にはとても感動する。たとえ、後に拷問されてこの言葉を彼が取り消してもだ。

とても感動した。
・・

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毒女 悦子

韓国映画をみてハッと胸をわしづかみにされたことありませんか?
悲しい時つらい時に韓国映画を見て、心がほんのすこし救われたことありませんか? しあわせを感じたことありませんか?

わたしはたくさんあります。

韓国映画のもつ奥深さになぐさめられたり、息もできない胸苦しさを覚えたり、一日中その余韻に浸ったり、夢の中まで追いかけられたり。 韓国映画に流れるあたたかいもの、残忍なもの、切ない永遠のものに、 ずっとずっと恋をしています。

同じ気持ちの人たちとつながっていたい。

アラフィフ。老後が心配。
でも死ぬまで韓国映画を抱きしめているぞ。

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