スリルとサスペンス

刑事と占い師が挑む釜山少女誘拐事件!「極秘捜査」(2015)

2019-10-19

キム・ユンソクとユ・ヘジンがタッグを組む。硬派で奇想天外な犯人追跡!こんなのあり?!

作品情報

●評価 3.0★★★
●制作 2016年
●原題 극비수사(極秘捜査)
●原本 小説「極秘捜査」コン・ギリョン
●上映時間 108分
●監督 クァク・キョンテク
●脚本 ハン・デドク,クァク・キョンテク
●出演
キム・ユンソク、ユ・ヘジン、ソン・ヨンチャン、パク・ヒョジュ、イ・ジョンウン、チャン・ヨンナム、チャン・ミョンガプ、チョン・ホビン、イ・ユニ、イ・ジュニョク①


あらすじ

1978年釜山で少女が誘拐された。ソン・ウンジュ(ファン・チェウォン)7才。地元の資産家の娘である。学校からの帰宅途中、何者かに連れ去られた。夜になっても帰宅しない娘を心配した両親は、すぐさま警察に通報。誘拐事件として捜査がはじまる。

しかし、警察が父親ソン・ヒョンテ(ソン・ヨンチャン)の女性関係を調べたり、ソン家の運転手を犯人扱いして暴行したことから父親は激怒。警察(中部署)に強く抗議したため、捜査の主導権は機動隊勤務のコン刑事(キム・ユンソク)に移ることに。コン刑事は誘拐された少女の叔母から信頼されていたことから指名された。

最初は、警察上層部や金持ちに振り回されることに不満を抱いていたコンだが、ウンジュのことを心配する長男ソンハンイ・ヒョジェ)を思い、事件を引き受けることにする。ウンジュの命を守るために極秘捜査が敢行された。公開捜査をして目撃者を募るべきだと考える中部署はコンのやり方に納得がいかない。捜査チームは内部で軋轢を抱えたまま始動する。

一方、ウンジュの叔母と母親はウンジュの生存を知るために、あらゆる導師(占い師)に占ってもらう。どの占い師もウンジュはすでに死んでいる。あきらめなさいと言うが、たった一人だけ「ウンジュは生きている」「コン刑事に頼りなさい」と占う導師がいた。その名はキム導師ユ・ヘジン)。占いの大家ペク導師に学び、修行を終えたばかりの身であった。大喜びする母親と叔母。

誘拐から15日目。犯人からやっと身代金を要求する電話が入る。母親が指定された場所に行くが、警察の動きを察知した犯人は現れず、ウンジュを取りもどすことができない。手柄を立てることだけを考えて稚拙に行動する中部署に怒りを募らせるコン刑事。そのうち母親が精神的に激しく消耗し倒れてしまう。

突如、犯人が汝矣島での取引を求めてきた。急遽、ソウルに捜査本部が設置され、ソウル捜査班と中部署、そして釜山チーム(コン刑事、キム導師、漁師ペと運転手)の3つが合同して捜査に当たることになった。ソウル班と中部署の手柄をめぐる争い、中部署のコン刑事にたいする嫌がらせ等、さまざまな思惑が錯綜し、捜査はいっこうに進展しない。

ソウルに来ても、必死にウンジュの生存を祈り、占いを欠かさないキム導師。キムは今回の事件に占い師としてのすべてを賭けていた。思うように事が運ばないことから、キムをバカにして怒りをぶつけるコン。二人は激しくぶつかり合いながらも、お互いを理解していく。

約一か月が過ぎた。ウンジュの生存率は限りなくゼロに近い。はたしてコン刑事とキム導師は犯人を捕まえ、ウンジュを無事救出することができるのか!?



※以下はネタバレが含まれます。観てない方は読まないことをお勧めします。


実際の事件がベース。1978年釜山少女誘拐事件

原案は、小説「極秘捜査」(韓国)。実際の事件をベースにしたものだという。

朝鮮戦争以後、国策として経済発展が急がれる中、富める者は富み、貧しい者は貧しいままという二極化が進む。庶民の中で格差が徐々に広がる中、韓国では誘拐事件が後を絶たなかった。借金を抱える貧しい低階層の人間が資産家の子女を誘拐して身代金を要求する。1978年、釜山で実際に起きた少女誘拐事件もその一つである。

幸いにして、この誘拐事件では少女は無事保護され、犯人も逮捕されているが、この時代、誘拐事件が起こっても無事保護されることは非常にめずらしかったという。

ウニョン。友達といっしょに帰宅するところ。ホイッスルが胸にある

映画に登場する小さなホイッスル。親は子供たちが誘拐事件に巻き込まれないように、一人に一個首から下げさせていたという。怪しい人が近づいてきたら吹いて周りに知らせるためだ。

釜山で幼少期を暮らした俳優キム・ユンソクも実は首にかけていたそうだ。しかも実際の事件が起きたのが釜山の西区。キム・ユンソクも西区に住んでいた。はて、これは偶然と呼んでいいのか。わたしには37年経って、彼が演じるべき役を演じたとしか思えない。

この事件が後世の注目をひくのは、事件の解決に「導師」が関与した点であろう。導師を含んで実話なのだ。

科学的な捜査が進む中、導師は70年代後半ですでに時代の遺物と化していたのに、神だのみとして親がすがった導師が神的な力を発揮して子供の救出に貢献している。

本当にそんなことあったのか?!と疑いたくなる話だが、この後、少女が二回目に誘拐された時も(この少女災難つづき!)、コン刑事とキム導師のコンビによって救出されていることからも、導師の果たした役割は本当だったのだろう。

だが、キム導師の師匠さえも当てることができなかったものをキム導師が当てていることを考えると、一律に導師の占いのおかげというよりは、キム導師個人にそもそも特殊能力があったと考えるのが妥当であろう。

事件発生後から少女が見つかる33日の間、次々と言い当てる導師の能力の高さに、家族だけでなくコン刑事までが心服を寄せた。キム導師もコン刑事も手柄欲しさでなく、ただウンジュを助けたいという純粋な気持ちをもっていた。その気持ちが天に通じて少女は助けられた。

キム・ユンソクとユ・ヘジン。二人が共演するなら当然見たくなる。

あいつが犯人だ!見つめるコン刑事(キム・ユンソク)

私が、キム・ユンソクさんが好きになったのは、あるインタビューで、自分はハードボイルドなジャンルがあまり好きではない、と答えている記事を見た時からだ。意外だった。自分がそれまでもっていたキム・ユンソクさんへのイメージががらりと変わった。

キム・ユンソクが今回引き受けたのは、息子のクラスメートのウンジョンが誘拐され、「お父さん、ウンジョンを助けてあげてね」と息子に言われたことで奮起するコン刑事役だ。理由もなく人を殴りつけたり、怒鳴り散らしたりするアウトローのヤクザや財閥の社長とはちがう。それはまた男の友情をなによりも優先するウリチング的マッチョイズムを追及したものでもない。

自分の手柄よりも親の気持ちを考えて心を痛めたり、女性に乱暴するチンピラに怒りをおぼえる庶民派警察官である。等身大の役柄だから引き受けたというように、キム・ユンソクが演じるコン刑事はとても人間味がある。彼は歴史に名を残さずとも、家族を愛し、弱き者を助けて一生懸命生きる。

ハードボイルドが好きではない。そう言ったキム・ユンソクが演ずる一庶民の役柄をもっともっと観ていきたいと思う。

キム導師を演じたユ・ヘジン

キム導師を熱演したユ・ヘジンさん。韓国通なら知らない人はいないだろう。不細工男(すみません)のコミカルをやらせたら右に出るものはいないが、アウトローの硬派な役もなんなくこなせるオールマイティだ。人柄の良さでも業界に敵はいない。不思議である。この人の顔、怒っていても笑っていても一度見たら忘れられない。

今回は、清貧なキム導師をただただ誠実に、ひたすら忠実に演じてくれた。物事の本質をまっすぐ見つめ、欲をもたず庶民の味方で占い師。これははまり役だと思ったのは私だけか。心に残るヘジン作品となった。

韓国映画にみる毎回腐っている韓国警察の姿。これは呪縛なのか? 誇張なのか?

韓国人の気質なのか?
毎回韓国の警察が出てくると、とにかくその腐れっぷりに驚く。韓国の人はなにも疑問を感じずにこれを見て笑っているのか? それとも怒っているのか?

今回の誘拐事件での腐れっぷりは、縄張り意識と手柄争いだ。そういえば収賄もあった(父親からソウル警察本部長へ)。

ウンジュを救うために大きな障害となったのが、中部署とソウル捜査班との縄張り意識と手柄争いである。コン刑事やキム導師は二つの組織に挟まれて、ウンジュ救出が思うように進まないことにイライラする(観客はもっとイライラした)。

中部署(釜山)は手柄を独り占めしようと、コン刑事がソウル班に連絡することを妨害したり、コン刑事の過去の収賄を告発して、事件の担当から外そうとする。同じ釜山同士がチームを築けないこの情けなさには唖然とする。なんだこれは? 釜山人気質なのか?


誘拐犯の車のナンバーが判明した時など、中部班長が「これでソウルで逮捕する必要はない。犯人を釜山にうまく誘導して、あとは自分たちで捕まえるから」と捜査会議で臆面もなく言ってのけたが、本当にこんな手柄信者ばかりが中部署を構成していたのか? 事件の真相が知りたくなる。

小説「極秘捜査」(韓国)がネットで探し出せなかったことと、また日本語で検索しきれなかったので、憶測でしか書けないのが悔しい。

コン刑事(キム・ユンソク)、中部署の手柄欲にがぶちぎれる!

「おまえらは命より手柄のほうが大切なのか?!」
「親の気持ちを考えてみろ!」

コン刑事が怒鳴りつける場面がある。

キム・ユンソクは、この映画がもしも人質が死んで終わるなら自分は出演しなかったと言う。それぐらい子供の命は大事だ。クァク・キョンテク監督も一番この映画で描きたかったことは、ここだったのではないかと思う。

確かに、導師と刑事が組んで事件を解決した面白さは映画づくりや話題性には一役買う。しかし、一番の見所は、子供の命を優先に考えて心を一つにしなければならなかったのに、それができなかった情けない韓国警察の連中を怒鳴りつけるコン刑事の姿だろう。

小手先でひねくった展開をつくらず、真っ向から勝負したクァク・キョンテク監督の正統派「極秘捜査」は、純粋に見ている者の心を打つ。

わたしが一番好きだったシーン

最後になったが、わたしが一番好きだったシーンを備忘録として残しておきたい。それは、少女が救出された直後、コン刑事もキム導師も手柄を奪われてしまった場面である。

コン刑事は中部署の連中に、キム導師は師匠のペク導師に、一番手柄をもっていかれた。自分たちが命をかけて犯人を逮捕したのにもかかわらずだ。心に忸怩(じくじ)たる思いはあるものの、結局はそうすることで周りとの確執は避けることができると判断したコン刑事、師匠の顔が立つと判断したキム導師はほんとうに立派だったと思う。

少女の命が助かったのは、たしかに彼らの努力だった。勇敢であり、世間に認めてもらいたかっただろう。しかし、そこをぐっと我慢して手柄を周りにゆずったからこそ、上司の面目も立ち、その場が丸く収まった。

もしもここで我を通していたらどうなっていただろう? 
実話では、コン刑事はその後、警視長まで上り詰めているが、あの時周りに譲ることで、後でもっと大きな恵みが回ってきた。主の山に備えあり。神様は見ている。手柄は他人に譲ればいい。

「ウンジュが戻ったのだから、これでいいんだ」
キム導師の言葉がすべてを表していた。

すばらしい映画でした。






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毒女 悦子

韓国映画をみてハッと胸をわしづかみにされたことありませんか?
悲しい時つらい時に韓国映画を見て、心がほんのすこし救われたことありませんか? しあわせを感じたことありませんか?

わたしはたくさんあります。

韓国映画のもつ奥深さになぐさめられたり、息もできない胸苦しさを覚えたり、一日中その余韻に浸ったり、夢の中まで追いかけられたり。 韓国映画に流れるあたたかいもの、残忍なもの、切ない永遠のものに、 ずっとずっと恋をしています。

同じ気持ちの人たちとつながっていたい。

アラフィフ。老後が心配。
でも死ぬまで韓国映画を抱きしめているぞ。

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