~なぜあの子は死んだのだろう。人は何度も何度も自問自答することでしか前に進めない。

作品情報
●評価 4.5★★★★☆
●制作 2014年
●上映時間 117分
●原題 우아한 거짓말(優雅な嘘)
●監督 イ・ハン
●脚本 イ・スギョン
●出演
キム・ヒエ、コ・アソン、ユ・アイン、キム・ユジョン、チョン・ウヒ、キム・ジフン、ユ・ヨンミ、ソン・ドンイル他
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深い感動を呼んで止まない
数あるすばらしい韓国映画の中でも5本の指に入るすばらしい映画だったと断言できる。すばらしい映画だった。
一人の少女がいじめを受けて自殺をする悲しい映画だが、少女の自殺の原因をめぐって家族がそれぞれ自問反芻していく姿や心情がていねいに描写されている。
各シーンを振り返る度に、 深い感動を呼んで止まない。
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この映画があるのは以前から知っていたが、もっと早く見ればよかったと後悔。どのシーンを見ても、なくてはならないシーンだった。
答の出ない映画なのに、心の穴が埋められていくような作用がある。
母親役を演じたキム・ヒエさんがすばらしかった。
娘を自殺で亡くした母親の悲しみをようく演じ切っていた。
シワの一つ一つもすべてステキに思える女優さん。
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あと、チョン・ウヒさん。
ここでは、自殺した少女の同級生の姉役として登場しますが、すでに存在感が半端なかった。チョン・ウヒさんはその並外れた演技力でもうすでに有名ですね。この後、彼女は「ハン・ゴンジュ 17歳の涙」では主役、「哭声(コクソン)」にも出演され、国内外で大きな賞を受賞されている。
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あ、ユ・アインのロン毛、みなさまご注意。汚くてさいこー!
「アンティーク 〜西洋骨董洋菓子店〜」(2008)からすごく背も高くなって演技も成長しました。
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復讐ではなく長い思索の果てに癒しがある
この映画の最大の魅力は、小さな人間への深い愛情。
人間をあえて遠くから見つめようとする描写には
慈悲さえ感じる。そこにあるのは神様の目線。
若い頃は、好きキライのエゴがむき出しだ。だから、周りの家族や友人につらく当たってしまう。またそういう自分に気がつかないことが多い。
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人を傷つけると分かっていても態度に出さずにはいられない。
傷ついた子供もまた成長途中のエゴの塊だから、だれかと向き合って相談して生き抜こうとせず、すぐに絶望にくるまれ、自分を殺すことしか考えられなくなっていく。子供はつねに危うさの連鎖の中で生きている。
でも、この作品は、だれが悪いのかを追及したものではなく、
なぜ友達が、妹が、娘が、あの子が、死を選ぶことになったのかをみんなが各々考えはじめることに焦点を当てる。
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もっとああしてやればよかった。
もっと気づいてあげればよかった。
優しくしてあげればよかった。
いじめなきゃよかった・・・
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二度と取り戻すことはできない過去を何度も振り返り、悔やみ、
さまざま思いを交錯させ、悩み、苦しみ、時に目をそらし、
朝な夕なに、みながみな自分を責める。責めずにはいられない。
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そうして、人はそれぞれの毎日を見つけて歩き始める。
憎しみや悲しみを抱えながら、後悔を抱えながら、「それでも生きていく」という方向を手探りし、朝を迎える。
この映画は、残された者の心を被害者や加害者などカテゴライズせずにただじっと見つめていく。
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映画を観ている途中で何度も考えた。
この映画が加害者への復讐劇で終わるのでなければ、残された家族たちはどう心に区切りをつけていくのだろうと。
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「癒し」を考えた。
人はどうすれば憎しみから解放され、癒されるのか。
残された者は、長い長い年月をかけさえすれば、そこにたどりつくことができるのだろうか。私ならどうするだろう。
これだという正解は、最後まで映画には出てこなかった。
被害者家族も加害者もそれぞれが今日という一日を迎え、終わらせていくことしかできないという事実がそこに淡々と映し出されている。
悲しいのに時に笑ったり、悲しいのに悲しくないフリをしながら声をかけあったり、夕日を見上げたり。
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とてもいい映画でした。
是非、みなさんにもみてもらいたい。
わたしは韓国映画のこういう心の襞(ひだ)をていねいに追っていく作品がなによりも好きです。
号泣するのですが、泣いた後は不思議と癒されます。不思議ですね。
観るものに困ったら、たまには韓国映画で泣いてください。
ハリウッド映画にない、小さな人間の小さな切なさがあります。
追記。
原題の日本語直訳は「優雅な嘘」となりますが、
これを「優しい嘘」としたのは日本的で、私たち日本人の感性にしっくりくると思ったのはわたしだけでしょうか。
日本語では、「優雅な」だと被害者の死が深刻なものとして伝わらず作品の本質がぼやけてしまう。一方、「優しい」とすると、もう余力もなにも残っていない被害者の最後の精一杯さが見事に伝わってくる。タイトル一つとっても、こういった文化の差が感じられるのも楽しみの一つです。
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