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アカデミーなんか糞くらえ!感動せずにはいられない!「フィッシュマンの涙」(2015)

2019-11-14

称賛され、嘲笑され、罵られ、捨てられたフィッシュマンがほしかったのは、平凡な人生だった。

4.5★★★★☆
●原題「돌연변이(突然変異)」
●2015年製作
●上映時間93分
●監督・脚本 クォン・オグァン
●エグゼクティブ・プロデューサー イ・チャンドン
●出演
パク・グ / 魚人間 (イ・グァンス)
ソ・サンウォン / ABS記者(イ・チョニ)
魚人間の彼女 / パク・ポヨン
キム・ドンシク / ABS部長(チョン・インギ)
パク・グの父(チャン・グァン)
ピョン・ソックン博士(イ・ビョンジュン) 
キム・テゴン弁護士(キム・ヒウォン)
オグァン社の会長(ミョン・ゲナム)
ペンキ投げつけおばさん(キム・ジング)

あらすじ
生活に困窮し、学費を払うためにバイト漬けになる学生がたくさんいた。彼らの中には危険な臨床実験のアルバイトに手を出す者もいた。パク・グイ・グァンス)もその一人であった。サンミ製薬が行っていた治験に志願するも、1000人に1人の確率で突然変異が起こり、パクの上半身は魚人間と化してしまう。

一方、新聞記者になりたかったサンウォンイ・チョニ)はABSの部長ドンシクチョン・インギ)に、魚人間を独占取材できたら社員にしてやると言われ、正社員を賭けて魚男を追跡する。ネットで自称魚男の恋人だと吹聴するジン(パク・ボヨン)を突き止める。ジンは自分の家に逃げてきた魚人間を、なんと金目当てでサンミ製薬に売り飛ばしたという。驚くサンウォン。

その後、サンウォンはジンと二人でサンミ製薬から魚男を奪還し、ドキュメンタリーの製作と偽って取材を始めるが、困窮した末に治験バイトに手を出し、災難にあった貧困学生にたいして世間の同情に火がつく。町を歩けばヒーローのようにサインや写メを求められ、商魂たくましい商人が魚ソングや魚グッズを作って売りまくる。魚人間になった哀れな男はいまや時の人となっていた。

製薬会社と治験主任のピョン博士(イ・ビョンジュン)が訴えられ、一審では、彼らに有罪判決が下りるが、その後、治験の最中に魚男が看護士にセクハラをしていたというデマが拡散され、世間の彼にたいする風向きは変わりはじめる。

魚男を支持する派とそうでない派で国は二分され、そこに父親と弁護士の利権と欲が絡まり、魚男をめぐる環境は国全体で大混乱していく。しかし、病状は一日一日と悪化していくのに行き場がなくなっていく魚男。悲しさと虚しさで打ちのめされた彼は、ついにある決心をする。

治験で失敗し、魚人化した男をめぐって上を下へと熱狂しては冷める世間を痛烈に批判した社会派ドラマ。総合プロデューサーを務めたイ・チャンドンの鋭い風刺が各所で光る。



※ここから先はネタばれが含まれます。未だ観ていない方は読まないことをお勧めします。


シュールでシニカルなのに、心に温かいものがあふれる。すばらしい映画!

さすが、イ・チャンドンが総合プロデュースしただけある。
すばらしい映画だった! 絶句しました。
勧賞後、あまりにすばらしいので、よくよく調べるとイ・チャンドンさんがちゃんと製作チームに入っていました。深く納得。この映画、どうしてこんなにすばらしいのに、大きな賞を獲らなかったのだろう? 世界の七不思議だ。

世相という、得体のしれない社会の動きを深く見つめた映画だ。いつの時代も、大勢の人が少数の人に扇動され、羊のように右へ左へと流れていくが、それを静かに、そして懐疑的に見つめる目線がこの映画にはある。そこがすばらしい。

魚男をめぐる人間模様。どの人間も欲に目がくらんだ人間ばかりだ。

ここに登場する、魚人間をとり囲む人間どもは、誰もが恐ろしいほど欲にまみれて殺伐としている。すべての人間が彼を利用して、自分が幸せになろうとする。

酒の勢いで一晩を共にした恋人ジンは彼など愛していない。助けを求めてきた彼をひとかけらの罪悪感もなく製薬会社に売り飛ばしている。親父グァンは慰謝料の金勘定ばかりし、弁護士キムは原告側からいくら引き出せるか裏に回って値踏みをしている。唯一彼を心配するサンウォンも、実は記者になりたいがためにスクープを狙っている。
すべての人が時代の寵児、魚男を利用して一花咲かせようとしている。魚男はどこかでそれに気づきながら、平静を装い、時折淋しくため息をつく。

そして、世間はというと、彼を時の人としてもてはやしたと思えば、ある瞬間から史上最悪の害悪として地獄の底に突き落とす。映画が映し出す、世相の節操のない移り変わりは見事である。
些細なことで大衆が二分化され、裏切られたと、まるで世界の終わりかと見まごうほど大衆は騒ぎ出す。唾を飛ばした罵りあいがはじまり、中心街で頭を剃ったり、ガソリンをかぶったり、メガホンでがなり立てたりする。あいごー、あいごーと、まるで触覚をもがれた蝶々のように狂い飛びする。

「突然変異」とは韓国がつけた原題であるが、治験が失敗したことでの「突然変異」に加えて、世間が少しのことで世相を一変する様こそが真の「突然変異」であり、目先の小さなことにばかり心を奪われた大衆の右往左往する様を魚人間を通して痛烈に揶揄している。これは韓国社会だけでなく、日本社会にも同じことが言えるだろう。我々すべてがまさに群羊である。群羊はただ流れに身を任すしか知らない愚者の集まりだ。

表面しか見ない大衆の浅さ、熱しやすく冷めやすい世間の無責任さ。為政者や騒動を仕掛けた頭のいい奴らは背後でほくそ笑んでいる。イ・チャンドン風刺が炸裂する。

フィッシュマン、海に去る

そして、邦題「フィッシュマンの涙」のタイトルからは、上記の痛烈な批判を超えて、それでもこんな醜い人間どもに対する悲哀と愛情を感じる。少しでも生活を良くしよう、幸せになろうとしただけの人間が魚人へと醜く変貌し、日常生活は世間に翻弄された。しかし、結局のところ彼を利用する人はいても、助けてくれる人は現れなかった。にもかかわらず、心優しい彼は世間を非難することもせず、絶望を友にして、ひとしきり泣くだけであった。

魚男の言葉は胸に深く突き刺さる。
「ぼくの夢? ぼくの夢は平凡な人間になることだった。普通に就職して結婚して、子供をもつ。ただの平凡な人に・・・」

多くの若者が、生まれた時から格差貧困を背負う韓国の悲惨な現状を揶揄しているのだろう。 パク・グが魚男になる前から求めていたのが豊かさでなく、ただの「平凡」であった点に言葉を失う。こんなささやかな望みでさえも叶わぬ社会に彼は生きてきたのだ。この映画は、希望を失う多くの若者の言葉を代弁する。

最後、魚男は海に去ることを選ぶ。大きな夕日に向かって、上半身すべてウロコに覆われた背中が大海原に消えていく様は、全身に鳥肌が立つぐらい不気味で恐ろしいのに、孤高の哀愁にあふれていて、観ている私の涙をさそった。

利己的な人間ばかりの中、フィッシュマンだけが最後まで誰よりも謙虚で優しかった

わたしが一番感動したのは、フィッシュマンだけが徹頭徹尾優しかったということだ。だれにどんなに裏切られても、ひどいことを言われても、ペンキをぶっかけられても、殴られても売り飛ばされても、彼は一言も汚い言葉を吐いたり、自分をこんな体にした人間たちに毒づいたりもしなかった。

「ごめん」
彼が一番多くつぶやいたのがこの言葉だった。

怖い思いをするとすぐに逃げ返って風呂場でめそめそ泣く彼が、一番思いやりと優しさを貫きとおした。これはもうキリスト的な「強さ」ではないかと思うほどだ。自己犠牲と言う名の美学だ。

ジンに謝ろうと家を訪ねた魚男。彼女にお金を渡して去る。

確かに彼は生来の気弱だ。人と争うことは当然嫌いだが、自分のことで他人同士が争い合うことも大嫌いだ。そして、自分以上に周りが傷ついていないかと常に気にする。

恋人ジンにひどいことをされたにも拘わらず、心配して様子を見に行ったり、自分のことでケンカを始めるキム弁護士やサンウォンに、どうか止めてくれと頼む。果ては、自分などいなくなったほうがいいと自殺未遂をしたり、これで事が丸く収まるならと自分から製薬会社に戻ったりする。わたしは彼のそんな静かな強さに心打たれるのである。なんだこの強さはと。

こんなこと言っては失礼だが、韓国映画によってこの「自己犠牲」という美学を表現されることは、ある意味奇妙に思えてくる。超ラテン系で自己主張した者勝ちの韓国では、フィッシュマンがもつ一歩引いた美しさは、まさに「負け組」的世界であろう。
それは日本文化が得意とする美徳であるが、彼の国ではそれは弱者の姿であり、カッコ悪い生き方だ。それをこの映画は臆することなく真正面から表現している。韓国人はこの点どう感じたのだろう。とても気になる。

そして、この映画は、最後まで憎い演出をしてくれる。
サンウォンが手にしたビデオの中には、彼を利用し、笑いものにし、ポイと捨てた我々を嘲笑うかのように、フィッシュマンが青く広い海の中でびゅんびゅんと我がもの顔で泳ぎまくる姿が映し出されていた。

自由で幸せそうなフィッシュマンだ。
ああ、よかったと思うと同時に、フィッシュマンのほうが上手じゃん~!
とげらげら笑った。最後の最後まで、心優しきフィッシュマンに感動させられっぱなしであった。

すばらしい映画でした。

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毒女 悦子

韓国映画をみてハッと胸をわしづかみにされたことありませんか?
悲しい時つらい時に韓国映画を見て、心がほんのすこし救われたことありませんか? しあわせを感じたことありませんか?

わたしはたくさんあります。

韓国映画のもつ奥深さになぐさめられたり、息もできない胸苦しさを覚えたり、一日中その余韻に浸ったり、夢の中まで追いかけられたり。 韓国映画に流れるあたたかいもの、残忍なもの、切ない永遠のものに、 ずっとずっと恋をしています。

同じ気持ちの人たちとつながっていたい。

アラフィフ。老後が心配。
でも死ぬまで韓国映画を抱きしめているぞ。

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