行方不明の子犬、探します! ペ・ドゥナが走る!

作品情報
●評価 2.5★★☆
●制作 2000年
●上映時間 110分
●原題 플란다스의 개(フランダースの犬)
●監督 ポン・ジュノ
●脚本 ポン・ジュノ, ソン・テウン,ソン・ジホ
●出演
イ・ソンジェ、ペ・ドゥナ、キム・ホジョン、ピョン・ヒボン、コ・スヒ、キム・フェハ、キム・ジング、イム・サンス他
あらすじ
コ・ユンジェ(イ・ソンジェ)はしがない大学講師である。マンションで妻と暮らすが、ペット禁止にも拘わらず常日頃犬のけたたましい鳴き声に悩まされていた。いつまで経っても教授になるメドもなく妻にもバカにされて苛立っていたユンジェは、屋上に息抜きに行った時、迷子になっていた子犬を見つける。日頃の恨みを晴らしてやろうと子犬を殺そうとするが小心ゆえ出来ず、地下に監禁してそのまま放置する。
一方、子犬の持ち主である少女スルギ(ファン・チェリン)はマンション管理事務所で働くヒョンナム(ペ・ドゥナ)に子犬の捜索を依頼する。ヒョンナムはビラを刷り、子犬の行方を探すが、なかなか見つからない。ユンジェは自分が監禁した子犬が無声帯犬(吠えない犬)だったことを知り、慌てて地下に戻るが、子犬はマンション警備員のピョン(ピョン・ヒボン)に食べられてしまう。
翌日公園で、今度こそ問題の子犬を見つけたユンジェは、飼い主のおばあさん(キム・ジング)が目を離したスキに拉致し、マンション屋上から投げ殺してしまう。その光景を遠くのビルから偶然見かけたヒョンナムは犯人をつかまえようと追いかけるが、逃げられてしまう。
やっとうるさい鳴き声から解放されたユンジェだったが、教授になるためには学長に賄賂を渡さなくてはならない。金策に奔走していると、帰宅した妻の腕には買ってきたばかりの子犬が抱きかかえられていた。驚愕するユンジェ。妻は子犬にメロメロで、夫に今後は子犬の散歩と下の世話をしろと言い渡す。不満顔のユンジェ。
翌日、子犬の散歩の途中、ユンジェは子犬とはぐれてしまう。夜遅くまで探し回ったが子犬は見つからなかった。帰宅すると妻にひどくなじられ、ぶち切れるユンジェ。しかし、子犬は妻が相当な決心をして買ったものと知り、外に飛び出して一晩中子犬を探し回る。ヒョンナムも理由を知り、二人で子犬を探し回る。
果たして二人は子犬を見つけることが出来るのか。ユンジェは教授になれるのか。妻の機嫌はなおるのか。
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※ここから先はネタばらしがあります。未だ御覧になってない方は読まないことをお勧めします。
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ペ・ドゥナさん、ユニセックスな可愛さ世界一!

とにかく、誉めることから書こう。
ペ・ドゥナが言葉で言い尽くせないくらい可愛かった。黄色いパーカーが最高に似合う。フードをかぶってヒモをきゅっと結んだら戦闘態勢。長い団地廊下を走り回る姿が最高にキュートで興奮した。
ペ・ドゥナさんはこの1年後に「子猫をお願い」に出演しているが、同じようにユニセックス風のからりとした役ヘジュをこなしている。彼女の最高の魅力は、この男女どちらにも属さない、かつ両性から愛される「超性」(ユニセックス)であろう。ペ・ドゥナさんほどユニセックス道を極め、長年人気を博している女優も珍しいと思う。それは「私の少女」でも同じだ。今後も彼女のユニセックスな魅力爆発の作品をどんどん観ていきたいと思う。
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いつもヒョンナムとつるんで遊んでいる
次に、ヒョンナム(ペ・ドゥナ)の悪友ジャンミ(コ・スヒ)もなかなか存在感が出ていた。普段は雑貨屋の超やる気なし店員だが、ヒョンナムが困った時には飛んできて助けるというスーパーボディガードぶりがとても良かった。結局、ジャンミがいたから犬泥棒が捕まり、ユンジェの妻の機嫌は直り、ユンジェは教授になれたのだ。ストーリーブレイクスルーとして、じつは偉大な功労者を演じた。
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犬食がない国の日本ではこの映画のブラック度も、親しみもぜったいに分からない。
この映画、巷のレビューはほどほどに良いのが不思議だ。
正直に言うぞ。みんな、「ポン・ジュノ監督」だからという色眼鏡で見ていないか? わたしはそう信じて疑わない。名もなき新人監督がこれを作ったら、ぜったいに評価は低かっただろう。賞だって獲れなかったのではないか?
何よりも日本人には犬食文化がない。
犬食のない文化圏ではこれだけ犬を粗末に扱う映画には嫌悪感を禁じ得ない。いくら「医療機関で安全に管理されています」という前書きを見ても、日本人には驚天動地の映画だ。仮にそれがCGだろうが、マンションの屋上から投げようとしているのを見ただけでも胸糞悪くなる。
わたし的にはこの映画、始まって5分30秒での「犬の絞首刑シーン」でもって完全アウト!だった。まちがいなく犬を生きたまま吊るしているのだから問答無用だろう。・

この映画、一体なにを伝えたかったのだろう?
天才ポン・ジュノの作るものは、ほんとうに理解を超える。
振り返って考えよう。ユンジェは二匹の犬にたいして大罪を犯している。これを人に例えてみると、一匹目は拉致監禁、二匹目は殺害だ(高いところから投げ殺している)。
一匹目の拉致監禁にかんしては「死んでもいい」と思ってやっているので、ただの拉致監禁では終わらない。未必の故意の殺人に格上げだ(犬鍋にされてピョン警備員に食われてしまった)。
ユンジェは犬に悩まされ犬を憎み、いつか殺してやろうと思っていた。だから、二度も犬を拉致し、死に追いやったが、結局、妻の犬が行方不明になった時、はじめて飼い主の気持ちがわかったのだろう。たかが犬一匹のために世界が崩れていく音がしたのではないか。犬が無事戻ると、妻のご機嫌はもどり、教授になる金策が叶った。この犬が戻らなければ、家庭は崩壊、教授の道も開けなかったのだ。人間はまったく勝手だ。ブラッキーだ。
わたしがこの映画の功績として思いつくのは、「加害者が被害者になってあわてふためくことのリアル」を表現したことである。
つまりは、人間は同じ被害を受けないと、本当の苦しみを血肉として理解できない。ユンジェは犬が生きて返ってきただけまだ幸せである。大根干しばばぁ(キム・ジング)は愛犬が死んだショックで急逝してしまったのだから。そう考えると、なおさらユンジェの罪は大きい。残酷すぎて声が出ない。
こんな奴が人の上に立つ教授になるのか。考えてみると恐ろしい話だ。
ここにもブラッキーが転がっている。
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韓国のマンションは犬受難だ。おっかない奴が周りにうようよいる。
私が驚いたのは、野犬や食肉用として養殖されている犬を捕まえて犬鍋にするのではなく、この映画ではマンションに住む「家犬」まで捕まえて犬鍋にするという点である。人様が飼っている首輪付きの犬を拉致して殺して勝手に食ってしまうという、とんでもないことがこの映画では起こっている。
なんて犬受難な国なのであろう。犬とはそれほど美味なのか。はてさて韓国人はそれほど倫理観がないのか(笑) ポン・ジュノ監督が狙うのはこの部分なのか? つまり、「家犬まで勝手に食らう韓国人」ってことだ。
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どちらも犬食人種だ
このマンションに棲息する犬食人種は、マンション警備員ピョンと、浮浪者チェの二人である。
二人を比較して思うのは、警備員ピョンのほうが悪質だということだ。浮浪者チェは、定職がなく生きるために犬を食べるが、警備員ピョンは給与取得者であるにも拘わらず犬を見つけては目を爛爛させて犬食しようとする。それが死体だろうが生きてようがだ。警備員なのに住人の犬を勝手に殺して食らうのだ。サバンナの捕食動物か!
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あと、忘れてはならないのは、ユンジェの罪は相当重い。
騒鳴を理由としてすぐさま他人の犬を殺そうとするのは最悪のすることだ。なぜ鳴き声を注意するなり、マンションの月例会にかけるなりしなかったのか。打つべき妥当な手はいくらでもあったはずである。自分の思い通りにならないからといって、他人の財産(犬)を破壊(殺そう)しようとする愚かさはユンジェがダントツだ。
ユンジェは最後賄賂を贈ってまんまと教授になるが、こんな奴が人の上に立つこと自体が、はい、とってもブラッキーですこの映画。
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最後に一言だけ付け加えるが、ペ・ドゥナ演じるヒョンナムも犬を純粋に可哀想に思って助けたわけではない。手柄を立ててインタビューされ、テレビに映りたかったのである。その下心があったことは忘れてはいけない。
結局、犬を心から可哀想だという純粋な気持ちから救助活動に動いた人はこのマンションには誰一人いなかった。みんな私利私欲にまみれた人ばかりであったということ。それでも、皆がささやかにこのマンションに関わり、今日も一つ屋根の下暮らしているという事実はしみじみくる。地下にボイラー・キムの死体を抱きながらもだ。
人はこうして何もなかったのかの如く生きていく。
切なくてかわいい動物だ。
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以上、犬受難なマンションを舞台にした愚かな人間どもをブラッキーにえぐり倒した「ほえる犬は噛まない」。わたしはあまり楽しめませんでしたが、キライな映画ではなかった。
あ、犬鍋、ぜったいに食わんからな!
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