人間の生存を拒む神の聖地ヒマラヤで人は正常な思考をつむぎ続けられるのか

作品情報
●評価 3.0★★★
●制作 2015年
●上映時間 124分
●原題 히말라야(ヒマラヤ)
●監督 イ・ソックン
●脚本 スオ、ミン・ジウン
●出演
ファン・ジョンミン、キム・イングォン、ラ・ミラン、チョンウ、チョ・ソンハ、キム・ウォネ、チョ・ダルファン、チョン・ユミ他
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※この先は、ネタバレが含まれます。未だ御覧になってない方は読まないことをお勧めします。
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すごいぞ! 800万人の観客動員を記録
はー、やっと見れた。
CG合成とは言え、ヒマラヤのうっつくしー景色がこれでもかこれでもかと迫ってきて、その荘厳さがよく伝わる。こりゃ高山大好き人間にはたまらないだろうなあって思いました。よく作られていました。
映画は、オム・ホンギルという韓国の伝説の登山家をモデルとした山映画である。ヒマラヤ8000メートル峰14座を世界で9番目に制覇したオム・ホンギルは、登山を引退した後に、かつてヒマラヤで亡くした友人の亡骸を連れて帰ろうと、2005年、77日間におよぶ過酷なヒマラヤ遠征を決行した。
自分の記録に挑戦するのではなく、ただ単に友の亡骸を連れてかえるために、この遠征に命をかけたという実話に、ラテン系の韓国民が熱くならないわけがない。
この映画、韓国ではなんと800万人の観客動員数を記録した大ヒット作であるという。
韓国映画でこの人が演じればヒット間違いなしと言われる、ファン・ジョンミンがものすごく格好良くカリスマ山岳家オム・ホンギルを演じた。
撮影隊は、8000メートル高地を登って撮影したのではなく、もうすこし下のほうで撮ったらしいが、十分にヒマラヤ山の迫力は伝わったと思う。
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妙なイライラ感に邪魔されて、感動できなかった
さて、ここから辛口評価に入りますが・・・、
正直に言うと、この映画、上記に書いたようにスペクタクルな雪山や、熱い友情もあったりして、けっこうつかみはOKなのですが、わたし的にはストーリー展開に大きなイライラ感がありました。
というのも、超高山の登山って命をかけた戦いなのに、登場する隊長(ファン・ジョンミン)とチームがとてつもなく感情に振り回されまくる場面がいく度も登場して、唖然とすることが多かった。
ヒマラヤクラスに登る登山家なら最悪の時の訓練って当然すぎるぐらい受けてるはずだと思いませんか? だって死亡率も1~2%ある、負傷率はもっと高いと聞く。
なのに、遭難する度に、慌てふためいて、
なんで助けてくれないんだ!?
と周りに悪態をつき八つ当たりする。そもそもこんな悪天候になぜ登山したのよ? と、つっこみたかった。毎回感情的で無秩序で、無計画。こんな展開ってあり? ほんとうに神登山家なんですか?
マイクで他国チームに助けて助けて!とSOSを送るのですが、呼びかけてばかりいずに、自分が行けばいいのにと不思議ワールド全力全開。
マイナス40度の猛吹雪で、死ぬ確率95%以上なのに、だれが助けに行く?
死んでこいってか? その人にも家族がいるんだぞ。観ているこちら側は疑問だらけ。
登山のドラマチック性といえば、悪天候&遭難しかないわけだし、多少の混乱は予想はしていたのに、なんだかダメだった。まるで素人が行ったような違和感がするんですが、これぐらいの超高山レベルとなると、完全に人間の理性って失われて、玄人が素人化してしまうのでしょうか? ずっとイライラしっぱなしでした。
命令やルールに則って軍隊式に決断・行動しないと死んでしまう登山で、情緒に流されてばっかりの登山チームにため息ばかりが出てしまう。
なんでテントも張らずに高度8000mでビバークするんでしょう?
クレパスの渡り方もど素人に、なんで同行させてるんでしょう?
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そのとーり! あいつは山に登り、山になったんだ。そっとしておいてあげなさい。
メモの量が増した。
「あいつは山に登り、山になったんだ」
そう。この言葉の通りだ。
そいつは山に登った、愛した、死んだ。
そう、まさに山版スタンダール。
その人の人生はとってもしあわせだったんだ。
天国で笑ってる。亡骸を連れて帰るなんてよけいなことは考えず、そーっとしておいてあげなさい。
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ファン・ジョンミン扮する主人公が、「いっしょに山に登り、共に下りるんだ」と雪山で叫ぶが、それは理想であって現実的ではない。プロの登山家としてはもってはいけない感情。命がいくらあっても足りない。わたしならこんな隊長について行きたくないと思った。
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危ないと思ったら「行かない」もしくは、いったん「撤収!」
いくら残酷でも、「負傷者や死亡者はいったん山に置いていくこと」(自分が安全に帰って救助隊を呼ばずばどうする!)
もしも、自分が登山チームに入るなら、これを徹底する隊長について行きたい。
と、ここまで弾丸カキコして、はたと分かった・・・
わたしのようなサド的考え方だと、
この人間ドラマって生まれない・・・
監督、すみません。
※オム・ホンギルさんのインタビュー記事が載っています。ここ。
おだやかな笑顔のオムさん。日本のHYAKKEI のインタビューに気持ちよく答えてくださってる。これを見ると、政治や歴史を超えて日韓が登山という文化を通して仲良くできるのだと思えてきた。
日本人も韓国人もさ、山やスポーツに政治や歴史を持ち込まないでよね・・・
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