アクション

ハ・ジョンウが逃げに逃げまくる!「哀しき獣」(2010)

2019-08-28

国境を越えるということは生きるということ。そこには希望がある!

作品情報

●評価 4.0★★★★
●制作 2010年
●上映時間156分
●原題 황해(黄海)
●英語題 Hwanghae
●監督 ナ・ホンジン
●脚本 ナ・ホンジン
●出演
ハ・ジョンウ、キム・ユンソク、チョ・ソンハ、チョン・マンシク、イム・チョルミン他



※この先は、ネタバレが含まれます。未だ御覧になってない方は読まないことをお勧めします。


野良犬みたく地べたを這いずり回って生きる様のすごさ。

なんてすごい作品なんだろう…
韓国映画ってなんて力があるんだろう・・・

見終わった後、しばし絶句。
中國大陸の隅っこに住む貧しい朝鮮族が底辺で野良犬みたく地べたを這いずり回って生きる様が、とにかくすごかった。

なんだこの映画は?!

日本でも戦前戦中ならあったような、最下層で生きる人間のよどみきった目。ふつふつとマグマのように鬱積する怒り。目を伏せたくなるような生き様がこれでもかと描かれている。

生きるために密航船に乗って海を渡り、裏社会から抜けられずに家族がバラバラになっていくのは本当にあることなのだろう。

朝鮮自治区 延吉(ヨンギル)ってどこ?

見終わった私は、まずgoogle mapで場所を調べた。
中国の延辺(ヨンビョン)ってどこ?
朝鮮族自治区の延吉(ヨンギル)ってどこ?

そこは物語が始まった場所。
タクシー運転手のキム・グナムハ・ジョンウ)が借金を抱え、じめじめと暮らす場所だ。

延辺は、中国に住む朝鮮民族が一番多い自治州で、約192万人もいるという。1910年に日本が韓国を併合した後、半島から脱出して中国の東北地区へと逃げてきた朝鮮人たちが集中的に住みはじめた場所という。

中国は56もの民族がすむ多民族国家であり、それぞれが独特の文化をもつ。
延辺も自治州として、制限はあれど自治管理が認められた行政区であり、話されている言語は朝鮮語であり、キム・グナムもその中で教育を受け育ってきた人間であり、生まれて以来、自治州を出たことがなかった。

そんなキム・グナムだが、ソウルへ出稼ぎに出る妻のために借金をして送り出すが、その返済のために賭博に手を出してしまう。しかし、賭博ではカモにされ借金は膨れ上がってしまう。

半年後、とうとう妻からの仕送りは滞り、音信不通になった時点で心配が募るグナムは延吉からはるばるソウルへ向かう。

朝鮮族のマフィアと殺人の請負契約をすることで、密航を経てやっとの思いでソウルへたどりつくが、運命の歯車が狂い、グナムは警察や朝鮮族のマフィア、地元のヤクザから命を狙われることになる。

一体、グナムは延吉からどれくらい移動したのだろう。地図で追ってみた。

さすが、「チェイサー」哭声を監督したナ・ホンジンだけあって、黄海を密航するシーンのすさまじさや緊迫感たるやなかった。
古い密航船の息もつまる閉塞感、冬のいてつく海に投げだされるシーンなど、静止していられないシーンがこれでもかと登場してくる。それはとてもリアルだった。

きっと、こういう世界があの海では日常茶飯事にあるのだ。
私たち日本人が知らない、想像をはるかに超えた命を懸けた越境が今日この瞬間も繰り返されているにちがいない。

そう思うと、深いため息がもれた。
なんて自分たちはぬくぬくしたところに暮らしているのだろう。自由主義という甘美な思想を存分にまとい、民主主義という権利を声高に主張するくせに、投票もいかず先人たちの苦労も忘れている(そうでない方、ごめんなさい)。

彼らのように多額の借金を負い、命を懸けて海を、山を、越えたことなんて一度でもあったろうか。グナムの特攻隊のような生きっぷりにただただ唸った。前しか見えない獣のような走り方だ。

グナムが見せる「逃げる」男の美学

主人公のグナムのすごさを、ここで改めて振り返ってみると、
グナムは、根は優しい男で人殺しなんかとは無縁の男だ。

だから、彼のすごさは戦っている姿ではなく、
とにかく必死になって「逃げている」姿。

そこにとても感動する。

かれはもう絶体絶命の場面でも絶対にあきらめずに逃げる
ハンマーで殴られようが、包丁でずぶりと刺されようが、
ゴキブリのようにゴロリと息を吹き返し、しぶとく逃げる

とにかく逃げる! 逃げて逃げて逃げまくる

すべては、生きるために。

生きるとは、まさに「逃げる」ことではないのか。
わたしは、グナムの逃げる行為にとてつもなく肯定的な生き方を見た気がした。「逃げるなんて」と粋がってる奴にはわからないだろう。

グナムの逃げる様こそが、この映画のテーマではないかと思えるくらい、それほど彼が無様に「逃げころげていく」姿に心がはげしく揺さぶられた。

人を傷つけられない弱い人間の、たった一つの武器。
逃げて逃げて逃げまくる姿の、嗚咽がさすほどの凄んだ生きざま。

そこには暴力をはるかに超える強さがあった。
逃げろっ!グナム! 思わず叫んだ。

うん。この俳優、すばらしい。
ハ・ジョンウ

ぜひ観てあげてください。
全編、ナ・ホンジン監督の野良犬ノワール感満載で狂い死ぬことでしょう。

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毒女 悦子

韓国映画をみてハッと胸をわしづかみにされたことありませんか?
悲しい時つらい時に韓国映画を見て、心がほんのすこし救われたことありませんか? しあわせを感じたことありませんか?

わたしはたくさんあります。

韓国映画のもつ奥深さになぐさめられたり、息もできない胸苦しさを覚えたり、一日中その余韻に浸ったり、夢の中まで追いかけられたり。 韓国映画に流れるあたたかいもの、残忍なもの、切ない永遠のものに、 ずっとずっと恋をしています。

同じ気持ちの人たちとつながっていたい。

アラフィフ。老後が心配。
でも死ぬまで韓国映画を抱きしめているぞ。

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