実話ベースの映画に震えろ!そこらのホラーよりなんぼか怖い!

作品情報
●評価 2.5★★☆
●原題 날, 보러와요(わたしに会いにきて)
●英語題 INSANE
●制作 2016年
●上映時間 91分
●監督 イ・チョルハ
●脚本 バランタイン
●出演
カン・イェウォン、イ・サンユン、チェ・ジノ、チョン・ミニ他
・
あらすじ
ある日、カン・スア(カン・イェウォン)は帰宅途中、町中でいきなり拉致され、精神病院に運ばれる。病院では自由を奪われ薬を強制的に投与される。どれだけ自分は正気だ、と訴えても信じてくれない。逃げようと警察に助けを求めても連れ戻される。
一年後、病院で火災が起こり、多数の患者が死亡するが、スアの名前は病院の患者リストからも死亡者リストからも見つからない。しかし、このスアの日記がテレビプロデューサーのナムス(イ・サンユン)に届く。日記には、精神病院での地獄のような日々がつづられていた。
ナムスはやらせ番組で責任を負わせられ停職になっていた。汚名返上をはかるため、謎めいたスアの事件を追うことを決める。スアは、警察署長でもある父親を殺した罪で警察に拘留されていることがわかった。
ナムスは、スアに会い行く。取材を重ねる内に、カン警察署長(チ・デハン)と精神病院のチャン院長(チェ・ジノ)が先輩後輩の仲であること、薬の横流しや臓器売買で暴利をむさぼっていること、スアの母親が亡くなる前、母親名義の土地が父親に変更されていたことを突き止める。
なんとしても視聴率がほしいナムスは、スアに「おまえは父親が憎かった。だからおまえが殺したんじゃないのか」と迫る。否定するスア。激しいやりとりの後、興奮したスアの口から出たのは、彼女が父親から性的暴行を受けていたことだった。
ナムスは、この衝撃的な事実を番組で放送し、大きな話題をさらう。
スアが無罪判決を受け、ナムスは彼女を家まで送るが、別れ際、スアの放った一言で決定的な事実に気がつく。オレはなぜ気がつかなかったのか。
・
・
・
※ここから先はネタバレが含まれます。未だ御覧になってない方は、読まないことをお勧めします。
・
ホラー映画よりおっかない。カン・イェウォン、この役よく引き受けた。えらい!
正常な人がなんの病気もなく、悪いこともしていないのに、ある日いきなり法律執行という名の下、拉致され監禁される。ある人は薬漬けにされて廃人となり、ある人は臓器をとられて命まで落とす。
こんなひどいことがまかり通るのか?
韓国での実話をベースにした映画。
どこぞのホラーよりずっと怖い。
韓国では2000年を過ぎてからも、強制入院という名の下、親族を社会から隔離して自由を奪い、臓器売買や財産を狙うという事件が横行したという。それらはすべて精神保健法24条が悪用されて起こった。
・
「保護者2人の同意と精神科専門医1人の診断があれば、患者本人の同意なしに保護入院として強制的に入院させることができる(韓国 / 精神保健法 24 条)。
読めば読むほど、背筋が凍る。
この法律は、2017年9月「精神疾患患者の強制入院は、本人の同意なければ憲法違反である」という判決が下ったことにより現在は改正されているが、2015年、「消された女」の予告放送がはじまった頃、ある人気テレビ番組でもこの法律が取り上げられ、世論の関心が集まったことで、改正の気運が高まったという。
「消された女」の映像は多くのニュース番組でも使われ、この法律が白日の下にさらされ裁判所の審判を仰ぐことになった。その意味では、この映画は世直しにひと肌ぬいだ力作といえる。
・

事件を調べる内に、警察と病院の深い闇に気づいていく
・
・

映画では、カン・イェウォンが渾身の演技を見せてくれている。
車で拉致されるシーン、精神病院でひどい暴行を受けるシーンなど、迫力満点の演技の数々だ。とくに、ナムス(イ・サンユン)と拘置所で激しいやりとりをするシーンなんかはとくに好きだ。「あたし演じてます感」がなく、ほんとうに上手い!と思った。美顔に加えて実力がある女優だ。
ちなみに、町の中で拉致されるシーンは、低予算だったことからエキストラもセットも満足に揃えられなかった。だから、何も知らない一般人の中でカメラを回したまま一発勝負で撮ったそうです。おかげで現場は一時騒然となったとか。
2019年現在、39才になられましたが、全然若く見える。
漢陽大学の声楽家卒で、デビューはミュージカル。その後は、映画やドラマに進出。記憶に新しいのは「ハロー!?ゴースト」や「朝鮮美女三銃士」の出演。恵まれた才能を努力でさらに伸ばし続けている。今後も目が離せない。
・
・
展開に追いつくのが少し大変。わかりやすさに少々欠ける
社会的弱者がある日突然、正当な理由もなく精神病院に隔離されるという恐ろしい題材を映画のテーマにしたのは、グッドアイデアだったと思う。
しかし、展開が少々荒っぽいところがあったように思えた。とくに、最後のどんでん返し。このどんでん返しを理解するのに少々時間がかかった。もう少し丁寧に伏線を説明していてくれたらよかったのにと残念だった。
・
わたしは映画を見る時は、かならず登場人物や場所の名前、年月日等を紙にメモしながら見るので展開について行けたが、メモしていない人はけっこう混乱したのではないだろうか。
・

制服姿&ノーパンで手にはピストル派!さすが、警察署長!
その他気になったところといえば、スアが父親に暴行を受けていたという事実もなんだかとってつけたような設定に感じるし、スアの銀色の指輪の意味も意味不明だ。またスア母が家で下着のまま寝苦しそうにしているシーンもあったが、あれもよくわからない。だれか知っていたら教えてくださーい。
・
最後に種明かしがあるのだが、これを見てもストンと胸に落ちず、色々考えるがもやもやーっとしたままである。このもやもや感は私の理解力不足というよりは、すみませんが、映画の作り自体がうまくなかった(雑!)と結論づけた。もう少し、丁寧に作ってもらいたかった。社会の闇にメスを入れた勇気ある映画だっただけに残念。
この点、イ・チョラ監督も「時間的余裕がなかった。申し訳ない」と回顧されている。監督のインタビュー記事は、こちら。
・
・
今回の名脇役! チョン・ミニさん

1987年8月27日生まれ。2012年35才の時に「結界の男」で映画デビューを果たしている。遅まきながらも、実力のある女優。
実は、主役のカン・イェウォンさんよりもハードじゃないかと思ったのが、チョン・ミニさんでした。
精神病院に入院している古参の患者さんミロ役。奇声を上げたり、おかしな行動もとるが、チャン院長と関係をもったりする等、ほんとうにハードで目を伏せたくなるようなサイコなシーンばかり演じてくれた。よくこんな役引き受けたなぁと感心。自尊心すべてを捨てないと出来ない。←言い過ぎ
・
・
謎解き。最後のピンポ~ン!

さて、最後のピンポ~ンの呼び鈴の意味、
みなさんはどう思われたでしょうか?
これは見た人だけへの質問ですが、ネットではこのピンポン♪について
「あのピンポンは一体何なの?」という疑問が結構出ていますね。ナムスじゃないの? という意見が多いみたいですが、わたしはちがうと思っています。あれは・・・、
精神病院からのお迎えのピンポンです。
こわーい!
・
・
