スリルとサスペンス

韓国クライム映画の古典といえば「殺人の追憶」(2003)

2019-08-27

ポン・ジュノ監督があなたの心に疑念という種をまく。殺人者は、あなたの横に座っていたあの人かもしれない

作品情報

●評価 4.5★★★★☆
●制作 2003年
●上映時間 132分
●原題 살인의 추억(殺人の追憶)
●監督 ポン・ジュノ
●脚本 ポン・ジュノ、シム・ソンポ
●出演
ソン・ガンホ、キム・サンギョン、パク・ヘイル、キム・レハ、ソン・ジェホ、ピョン・ヒボン、パク・ノシク



※この先は、ネタバレが含まれます。未だ御覧になってない方は読まないことをお勧めします。


韓国最悪の未解決事件 - 華城連続殺人事件

何度見てもすごい作品だとしみじみ。
いや、年をとって見た時のほうが心に突きささった。

この映画はあまりにも有名な作品で、韓国映画の殺人部門の古典になったとさえ言える。韓国はキライでも、この映画は観たよ、すごいよね! と興奮気味にいう日本人は結構いるのではないか。それほどの強い力をもつ。

1986~91年の京畿道を舞台とした実話に基づく作品。
その頃といえば、日本ではバブル景気がはじまった年であり、昭和天皇がご在位され、首相は中曽根さんという超なつかしい時代。

ディスコではボディコンギャルが檀上で踊りまくり、金箔のコーヒーが飛ぶように飲まれたりなんかして、日本ではギラギラとしたむき出しの拝金主義がはびこり、派手な時が刻まれていた。

そう思ってこの映画をみると、まことに感慨深いものがある。

好景気に沸きに沸いていた日本とは対照的なモノトーンの韓国の時代を感じることができる。火炎瓶を投げるデモが頻発し、薄汚いカラオケで安い酒を行儀悪く飲む。それでもそこには家族を大切にする市井の暮らしがあった。

この映画は、華城連続殺人事件(1986~1991)がモデルになっているのだが、この事件は調べれば調べるほど身の毛がよだつ。

華城市周辺で10名(13才の女子学生から71才の老女まで)の女性がそれぞれ性的に暴行され殺されるが、たくさんの検挙者を出したものの結局犯人はつかまらず、時効が成立してしまった未解決事件である。

犯人の残忍な暴行・殺人の手口や血液型もわかっており、今ならもっと高度なDNA判定等の科学捜査で犯人を追いつめることはできたと思うのだが、残念ながら1986年の韓国では無理だったのだろう。

この事件を数字で見ていくと、驚愕する。
警察・機動隊動員数、約167万人
容疑者及び捜査対象者、約21000人

記憶に新しいパク元大統領の辞任要求の際、大きなデモがあったが(ろうそく革命)、あの時の警察官の動員数は2万5000人ほどであった。これと比較しても、6年の歳月があったにせよ、警察・機動隊動員数が延べ167万人というのは、警察が威信をかけて事件解決にあたっていた比類なき事件だったということがわかる。考えられない数字だ。

一体どれだけの数の刑事が関わり捜査が積み重ねられ、どれだけの数の被疑者がつかまり犯人扱いされたのだろう。胸がつまった。

未解決事件。時代が追いつかなかったせいなのか。それともずさんな捜査が原因だったのか

必死ゆえか何なのか。映画にも出て来るが、当時の韓国の警察の捜査があまりにもずさんでため息がもれた。

韓国は、80年代はあんなに捜査がずさんだったのか。標的まずありき。鬼畜犯人も怖いが、警察のずさんな捜査はなによりも怖かった。次は自分が犯人にされるのだ。

実際に、自殺者も何人か出たという。

気の毒だ。一体どれだけの人が人生を狂わされたのだろう。
事件に権力側が振り回され、焦りを募らせた警察は守るはずだった村の人たちの平和な暮らしや人間関係を破壊していく。

刑事パク・トゥマンソン・ガンホ)もその一人。

犯人逮捕に生活のすべてをかけて奔走するが、走れども走れども捜査に行き詰まり、誤認逮捕を繰り返していく。冷静な判断力は消え、疑心暗鬼ばかりに支配される。おまえが犯人なのか!俺がつかまえてやる!

ここらへんの息詰まる攻防は、観ている者をぐいぐいひきつける。

左:ソン・ガンホ、右:名脇役パク・シノク

(※ちなみにわたしの大好きなパク・ノシクさんが村の知恵遅れ役として登場していて、警察に犯人扱いされ強制自白させられるシーンが出て来る。見ていてつらかったですが、名演技でした)

映画は最初から最後まで、犯人の顔が見えず、見えない相手とずっと戦いつづける緊張感がある。暗い雨のシーンや、穴倉のような家で身を寄せ合いながら、ひっそりと暮らす低階層の生活の場も登場する。こんな陰鬱な中、観客はどんな終わりがまっているのかと、そればかり想像する。

結局、事件は未解決事件として終わっていくのだが、この映画がたんなる事件の回想映画でないことは、この最後のシーンが語ってくれている。

最後、主役のソン・ガンホがまっすぐ観客をみつめて、止まるシーン。

それは、ほんの数秒だったが、自分は犯人でもないのに、心臓が止まったかのような感覚を覚えた。パク・トゥマン元刑事(ソン・ガンホ)とずっと苦労して捜査をしてきた者だけにしかわからない、心が通い合った瞬間だ。

これがこの映画のクライマックス。
半端ない一体感と臨場感に鳥肌が立った。

ハンニンワ アノアト ココニ キタ

ポン・ジュノ監督の演出に乾杯です。
すばらしかったです。
ぜひ観てあげてください。

最後に気づく、この映画カラーだったんだ・・・

最初も最後も、大海原と見まごうばかりのやまぶき色の田園が、視界いっぱいに見ている者に襲いかかるように広がる。
その圧倒される見事な描写に声を失う。

こんな草群れの海に、悪魔のような醜い心をもった人間が隠れていても、隣人はまったく分からないではないか。

広大な海原に無防備に放り出されてしまった観客は、なおさら独りを感じて不安にかられる。

空が泣けるほど青かった。
ああ、この映画ってカラーだったんだと、はじめて気がついた。

この映画の制作に関わった全ての人に感謝したい。


※追記 2019年9月19日、びっくりするニュースが飛び込んできた。
韓国警察は、別の事件で刑務所に収監されている50代の男のDNAが華城事件の犯人とされている型と一致したと発表した。事件は2006年4月にすでに公訴時効を迎えているが、警察は起訴はできなくとも捜査を引き続き行うと言う。
男は、最初、嫌疑について全面否定していたが、11月になってついに犯行を自白する。ちなみに男は1994年義理の妹への強姦殺人罪などで無期懲役が確定し服役中で、模範囚だという。

事件でお亡くなりになった犠牲者とその家族に、朗報になったと信じたい。
つかまってよかった・・・



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毒女 悦子

韓国映画をみてハッと胸をわしづかみにされたことありませんか?
悲しい時つらい時に韓国映画を見て、心がほんのすこし救われたことありませんか? しあわせを感じたことありませんか?

わたしはたくさんあります。

韓国映画のもつ奥深さになぐさめられたり、息もできない胸苦しさを覚えたり、一日中その余韻に浸ったり、夢の中まで追いかけられたり。 韓国映画に流れるあたたかいもの、残忍なもの、切ない永遠のものに、 ずっとずっと恋をしています。

同じ気持ちの人たちとつながっていたい。

アラフィフ。老後が心配。
でも死ぬまで韓国映画を抱きしめているぞ。

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