妬みと嫉妬にかられた中年女ほど恐いものはない。但し、女はしくじった。あの若い男を愛してしまったから。

作品情報
- 評価 2.5★★☆
- 制作 2016年
- 公開 2017年
- 原題 여교사(女教師)
- 英語題 Misbehavior
- 監督 キム・テヨン
- 脚本 キム・テヨン
- 出演
キム・ハヌル---パク・ヒョジュ、化学担当、高校非正規職員
ユ・イニョン---チュ・ヘヨン、化学担当、高校正規職員
イ・ウォングン---シン・ジェハ、舞踏特技生、高校生
イ・ヒジュン---パク・ヒョジュの恋人、ピョ・サンウ
キ・ジュボン---シン・ジェハの父親
チョン・ソギョン---教頭
他
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あらすじ(ネタバレなし)
パク・ヒョジュ(キム・ハヌル)は人生の大半を化学の公式を覚えて生きてきた。おかげで高校で化学を教える教員にもなれた。しかし、毎日が憂鬱だった。女の盛りは過ぎ、年ばかりとるのに恋人は結婚もしてくれない。職もない男だ。どうせ結婚しても将来は知れている。一日中テレビを見て遊んでいるのに、夕食くらい自分で作れないのか。ヒョジュはあんなに好きだった恋人が最近鬱陶しくて仕方がない。
悪いことは重なる。同僚の教員が出産のため入院した。彼女は正規職員だから妊娠も出産もできる。彼女の仕事がヒョジュにのしかかってくる。さて自分はどうだ。自分は彼女とちがい非正規職員だから、妊娠も出産もできない。そんなことすれば即強制退職だ。せっかくつかんだ教職の道を棒に振りたくはなかった。正規職員になる日までは辛抱しなければ。ヒョジュは毎日砂をかむような気持ちで過ごす。
しばらくして、理事長の娘ヘヨン(ユ・イニョン)が正規職員として赴任してくる。ヘヨンの担当はヒョジュと同じ化学だ。ヒョジュはイヤな予感を覚える。彼女が来たことで自分が正規職員として雇われる日がさらに遠くなるような気がした。ヘヨンはヒョジュを先輩と呼び慕ってくるが、ヒョジュはヘヨンのような後輩をもった記憶がない。それどころか、ヘヨンのように男好きのする、若くて、家柄に恵まれていて、金持ちのフィアンセがいる。そんな幸せを絵に描いたような女がヒョジュにとっては人生で一番イラつく存在だった。ことあるごとにヘヨンに冷たくあたるヒョジュ。
ある夕方、ヒョジュは偶然ヘヨンと生徒のチェハ(イ・ウォングン)が体育館の道具部屋で抱き合っているところを目撃してしまう。ヘヨンを不幸せに突き落とす絶好のチャンスを手にしたヒョジュ。あくる日、ヒョジュはヘヨンを呼び出し、「ここはモーテルじゃないのよ」と一刺しする。動揺するヘヨンだったが、すぐにチェハとの関係を認めて許しを乞う。チェハと別れると誓うヘヨン。勝ち誇ったように見つめるヒョジュ。
ヒョジュは、ヘヨンがフィアンセに内緒にしてまで付き合っていたチェハのことが気になりだす。ヘヨンを虜にしたチェハ。貧しい家庭に育つが、舞踏の待生だけあって、高身長で姿勢が美しく、立ち姿に独特な覇者の気があった。何よりも、ヒョジュの心にはさみしげなチェハの横顔が忘れられなかった。ヘヨンから大切なものを奪ってやろうとチェハに近づいたヒョジュだったが、次第に彼のことを愛しはじめている自分に気づく。
キム・ハヌルが演じる教師と生徒の禁断の愛。その愛は嫉妬と深い憎悪から始まったが、女教師は彼を深く愛してしまう。繰り返される生活苦と裏切られる愛。押さえてきた心の闇を女教師が解き放つ時、衝撃のラストが突きつけられる。年いった女教師ってこわいっっっ!
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※この先は、ネタバレが含まれます。未だ御覧になってない方は読まないことをお勧めします。
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巷のレビューはそれほど悪くないこの映画。一体なにがよかったのかあまり分からない私。

正直言って、filmarks でこの映画に 3.1 がつけられていることに衝撃を受けている。どこがよかったのか?
主演が、愛しきキム・ハヌルちゃんってことだけで、高得点をつけたくなる気持ちはたしかに分かる。往年の韓流ファンはキム・ハヌルが出ているだけでこの映画を選んだだろう。そして、多少ひどい出来栄えでも目をつむって点をあげたくなるのだ。わたしだってそうしたい。
だって、キム・ハヌルちゃんが主演だから!
ハヌルちゃん、この映画が制作された2016年は、38才。1998年の「バイジュン」から18年間、韓国の映画界を走り続けてきた。ペ・ヨンジュン、チェ・ジウ、イ・ヨンエらと並び、2000年初頭から始まった日本の韓流ブームを支えた立役者の一人だ。ラブコメの女王。ハヌルが出ると数字がとれる! 彼女のすばらしさは、映画だけでなく、テレビドラマの本数が多いことだ。どちらかと言えば、ドラマのハヌルちゃんといえる。どれだけ多く出演しても飽きられない稀有なヒロイン。どんなおとぼけ顔も、悪魔顔もハヌルちゃんなら愛くるしさ100倍だ。
ドラマなら「ガラスの華」、映画なら「彼女を信じないでください」、「同い年の家庭教師」等を見ると、ハヌルを知らないあなたでも間違いなくハートをわしづかみにされる!
だが、そんなキム・ハヌルちゃんも寄る年波には勝てない。映画を見てつくづく思い、わたしはしんみりした。
主人公ヒョジュが、(たぶん)40前の未婚女性であること、非正規職員で結婚も出産も許されない(こんなひどいことあるのか?!人権問題じゃないか!)、男運もなく、将来に夢がもてない真っ暗な中に置かれてあえいでいる。そんなヒョジュという役柄をあのキム・ハヌルが演じる年になったんだということ。しかも、この哀れなヒョジュをこれまた拍手したいほどよく演じていた! なんだこのマッチング感は!?
ある意味・・・ショックだった。
この映画でわかったもの。それはヒョジュ先生がパク・チャヌクばりのサイコだったってこと!
1.痛いほどわかるヒョジュ先生の気持ち。これだけ不幸がつづくと心もひねまがる。
日本でもたしかに教員に正規職員と非正規職員という区別がある。しかし、妊娠・出産時に退職を勧告できるというあからさまな契約事項は、どんな学校においても存在しないだろう。もしそれが契約事項としてあるのなら、裁判沙汰になるだろう。但しこれは表向きの話だ。実際には、妊娠すると退職しなければならないケースは多く、職場で有形無言のプレッシャーが女性を襲うのが現実だ。それは教員だけの話ではない。どんな職場も同じだ。生産性を求める会社にとって働く女性の妊娠・出産は、不利益=邪魔以外の何ものでもない。
日本でもこのレベルなのだから、韓国なら目も当てられないあからさまな差別が存在する。
「正規職員なら(妊娠・出産は)祝福されるが、君たちは違う。非常識だ!」
教頭は、ヒョジュ先生たち非正規職員にクギを指し、契約事項に署名を迫る。妊娠・出産すると堂々と追い出せる風潮がいまだ韓国にはあるということだ。なんと非人道的なことを平気でのたまうのだろう。教頭先生よ、あんただってお母さんが妊娠・出産してくれたから生まれて来れたんだよ。男はバカだね。これを女の問題だと片づけている。だから少子化って解決できないんだよ。人類の生存に関わる問題なのだ。
うつむくヒョジュ(キム・ハヌル)。
おまけに、チュ・ヘヨン(ユ・イニョン)が正規職員として赴任してきたことで、ヒョジュが正規職員になる日は遠のく。理事長を親にもつヘヨン。若くて、健康的で、何不自由ない暮らしをしてきた。おまけにヘヨンにはお金持ちのフィアンセまでいて、ヒョジュは彼からもヘヨンのことをよろしくお願いしますと頭を下げられる。たくさんの人に応援してもらえるヘヨンと孤独なヒョジュ。
映画は、二人が生まれながらに背負う格差を映し出していく。
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女教師ヒョジュをサイコに変えた数々のイライラ。一つ一つ検証して、自分もサイコにならないよう教訓にしよう!
1.正規職員になる機会をヘヨンによって奪われたこと
わたしは不思議に思うのだが、たしかにヒョジュのイライラはわかる。
しかし、ヘヨンは性格はいい子だ。純粋で人のことを疑わない。ヒョジュのことを「愛する先輩!」と呼び、小犬が後をつけるように慕ってくれている。もしも、ほんとうに正規職員になりたいならば、ずるいわたしならこの奇遇を利用する。
つまり、わたしがヒョジュならヘヨンに思い切り取り入って、仲良くなる!
お互いの家に行き来して、いっしょに映画を見たり、料理したり、泊まりあいっこしたり。共通の話題である化学の勉強を研鑽してもいい。そして、お父様の理事長にとりなしてもらって正規職員に推薦してもらうのだ。そのほうが得策ではないか?! 人を憎んだり、なにかを奪ったり、中傷したりするより、ずっと心がきれいでいられる。精神的に楽だ。ヒョジュは頭がいいにも関わらず、ここに気が付かなかったことを不思議に思う。きっと、生来的に気位の高いものをもっていて、それが邪魔をしたのだろう。
ヘヨンがイヤな女ならまだしも、こんな明るく素直な子なら、組みしやすい相手なのだ。
冷静になって、戦略としてとるべきだったのだ。残念。
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2.10年もの乙女時代を捧げたのに、恋人に逃げられてしまった。
これは何とも言えないくらいお気の毒だ。
確かに、いっしょに暮らしていた男は、クソ最低なひも男(イ・ヒジュン)だった。仕事もせず、一日中家でテレビを見てだらだらし、ヒョジュが帰ってきても皿の一つ洗っていない。学校で一日働き、疲れて帰宅したヒョジュが洗い物であふれたシンクを見てがっかりするシーンは痛いほどわかる。それでも何も言わず一生懸命夕食を作るが、「スープもない」と愚痴られる。男も男だが、こんな男つかまえるヒョジュのセンスもわからんと思った。
そして、ある日、このひも男は、フランスの友人の会社に行き、自由に執筆活動すると行って出ていく。泣いてすがるヒョジュに、「おまえに待ってくれとも言っていない。好きでやってたんだろ?」と捨て台詞を残して。びしっ!あたしたちのハヌルちゃんに何てこと言うの!?
ああ、ゲロ出るくらい最低男。
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3.ヘヨンが遊んだ男子学生チェハを愛してしまうが、彼はヒョジュを愛してはくれなかった。利用しただけだった。

ここも男関係だ。そして、これを境にヒョジュの神経はおかしくなっていく。さぁヒョジュのサイコ化の段階を見て楽しもう!
わたしは考えた。
ヒョジュにとっては一番なにが優先順位だったのだろうと。
正規職員になりたかったのであれば、上述したように、ヘヨンに取り入って正規職員にしてもらう道が一番早かったはずだ。しかもこの方法は誰も傷つけない! しかし、ヒョジュはヘヨンに取り入るどころか、ヘヨンをいじめることに全精力を傾けていく。チェハを奪えばヘヨンを一番苦しめられると考え、これみよがしにチェハに肩入れして見せる。しかし、次第にヒョジュ自身がそのチェハにおぼれていく。実は、それはヘヨンとチェハが仕組んだ罠であることも気づかずに。
担任クラスの、青臭い男子学生におぼれる。そんな不謹慎なことを真面目に生きてきた自分が!? 意図しなかった展開に、その後冷静なヒョジュが思い切り崩れていく。この映画の中で最高に面白かったところだ。
ここで余談だが、わたし的にはチェハ役を演じたイ・ウォングンにまったく魅力を感じず閉口した。
ヘヨンとヒョジュを虜にした男子学生(結局、ヘヨンは遊びだったが)。そんな魅力がイ・ウォングンからまったく感じないのだ。当時、ウォングンは、25才で高校生のチェハを演じたのだが、痩せすぎた体、前髪ぱっつん髪、内向的で貧相な顔立ちに、なぜこの子がキャスティングされたのかと不思議に感じた。世界一オーラのない男ウォングン、今後はどんな活躍をするのか。きみー、がんばっていきなはれやー。
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確かに、チェハに贈り物をしたり、家に泊めて、手を出して関係をもったのはヒョジュだ。あれだけヘヨンを責めておきながら、同じ過ちを自分が犯している。ヒョジュは淋しかったのだろう。優しいチェハに魅かれていったのだろう。愛する人に無我夢中になってしまう気持ちは分からないでもない。「わたしはお払い箱?わたしのこと愛しているって言ったじゃない!?」とすがるヒョジュに向かって、チェハがヒョジュに放った言葉は衝撃的だった。
「ボクに先に手を出したのは先生でしょ?僕は被害者でしょ?」
わたしならこの瞬間、「しまったー!!!!! クソガキにはめられた!!!」
とすべてを悟って撤退するが、ヒョジュは衝撃を受けながらも、どこかでチェハとやり直せると信じている感じがある。イタイ! 愚かな女すぎる。深く愛しすぎてしまったのだ。彼女にとっての優先順位は、正規職員ではなく、「男」になってしまった。
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4.謝罪---ヘヨンに屈服するヒョジュ。卑屈なまでの謝罪が彼女を精神的に追い詰める。
この場面は意外だった。ヒョジュがヘヨンに謝罪する展開になるとは思っていなかったので、少しがっかりした場面でもある。
あれだけヘヨンに説教したり、冷たくしたのだから、最後までぶれずに貫いてほしいと思ったのは私だけではないだろう。だが、ヒョジュは取り乱したようにヘヨンの後を追いかけ、這いつくばるようにぺこぺこ謝っている。なんじゃこれは?
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チェハに冷たくされた後、教頭に「理事長が、きみの契約だけ更新しなかった」と非正規職員としてもクビを宣告されたヒョジュは、やっと現実と向き合う。チェハとの夢物語のような逢瀬どころか、生活すること自体が崩壊しようとしている。プライドをかなぐり捨てて、ヒョジュはヘヨンに謝りに走るのだが、このヘヨンに謝る言葉が、聞いていて胸がささくれだった。(今さら謝るなんてカッコわる!)
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「わたしが悪かった。劣等感があって冷たくしたの。チェハのことも、子供じみているのは私のほうだった」
土下座をしようとグランドに手足をつこうとするヒョジュ。
感心したのは、あれだけいじめられたヘヨンだったが、ヒョジュに悪態も返さず、契約のことはお父さんに言って何とかしてあげると彼女に約束までしてあげる。なんていい子なのだろうヘヨンちゃん。ヘヨン、あんたはケツの軽さは日本一だけど、純粋で素直な子だ。人を憎むことを知らない。あたしはヒョジュよりなんぼか好きだよ。ちゅ。
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ヒョジュはこの時点でヘヨンに完敗。素直に、いままでの悪いところを反省して、大人しくしていればよかったのだ。しかし、後から思えば、この完膚なきまでに打ちのめされた衝撃が彼女の精神を崩壊させていたんだろうね。この屈辱感はヒョジュを狂わせていく大きなイベントになった。
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5.サイコ誕生! 人を殺してもなんとも感じないクレージーさ。ヒョジュの中の悪魔がヒョジュをコントロールする。

最後の最後のシーンは、とってもよかった。見応えがあった!
ヘヨンを熱湯殺しにしておいて、職員室に出勤し、普段と同じようにサンドイッチを頬ばる。学校にパトカーのサイレンが近づいてきても、なにかしら? とまるで我関せずの主人公ヒョジュの最後の表情に、悶えるほどの最高!を感じてしまった。
きゃ。やっぱりサイコはこうでなきゃつまんない!
ヒョジュがヘヨンに抑えていた殺意を爆発させたのは、もちろん「チェハのことはただの遊びだった」と告白された時だろう。フィアンセがいる自分にとってチェハは結婚するまでのセックスフレンド! けらけらと楽しそうに笑うヘヨン。男も職も自由にならないものはなに一つないヘヨンが目の前にいた。一方、自分はどうだろう。たった一人の愛情さえも手に入らない。これほど尽くしてあげたのに、あの人に「自分は被害者」とまで言われたのだ。何かがぷつりと自分の中で切れた。
ヒョジュがぐつぐつと煮えたぎる熱湯をヘヨンの頭上から滝のようにぶっかける。
ヘヨンの悲鳴と、彼女を生きたまま殺していく熱湯の煮えたぎる音が不気味だった。
カメラはぐいっと引いて撮影するが、あまりの残酷さに目をふせてしまう。
キム・ハヌルはこの時のヒョジュを、凍るような冷たい表情で演じたが、人間性を放棄した感情のない目つきが薄気味悪くて、ほんとうに怖かった。人を憎む時、感情を爆発させながら憎む人は救いがある。感情を感じさせないまま憎む人をサイコというのだ。
ヒョジュの表情はサイコそのものだ。ようこそサイコの世界へ~。
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この映画に残念を感じた部分---この作品って映画なの?ドラマなの?お願いおせーて。
ずばり、カメラワークが映画というよりは、テレビのように感じたところだ。
安ぽいのだ。
とくに、最後、チェハがヘヨンのマンションで、ヒョジュを犯す場面である。ヒョジュはヘヨンを熱湯殺しした後もチェハを呼び出し、復縁を迫る。もうこの哀れさはクレージーを超えていると断言できるのだが、ヒョジュは真剣にチェハに言い寄る。しかし、チェハがずっと愛していたのはヘヨンであり、ヒョジュと寝たことさえも嫌悪感を示す。
にもかかわらず、チェハはヒョジュをソファーに押し倒して彼女を犯すのだが(脚本ざつ!おかしーよ!)、この時のカメラワークが幼稚っぽくて、まるでテレビドラマのような安っぽいカメラワークに、がびーんとドン引いてしまったのは絶対に私だけでないと信じたい! つけ加えるなら、このレイプシーンがカメラワーク以上にひどくて笑えてしまうのだ。ひーひー吹いてしまった神様。
おめーら、お飯事(ままごと)か!?もっと真剣に演じろよ!
毒女は毒を吐くだよ。キム・ハヌルちゃんが出ているのに、こんなチープな映画にまとまってしまったのが残念でした。途中まではまぁまぁよかったんですがね。ワンカットワンカット、もうすこしこだわって撮影すればいいのに。これはキム・テヨン監督が悪い。残念な映画でした。
ハヌル~、これにめげんと、これからもがんばっていこや~。
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