素晴らしい一日が目の前に広がっているのに、多くの人はそれに気づかない。

作品情報
●評価 5.0★★★★★
●2008年製作
●上映時間124分
●原題 멋진 하루(素晴らしい一日)
●原作 「素晴らしい一日」平 安寿子(たいら・あすこ)
●監督 イ・ユンギ
●脚本 イ・ユンギ、パク・ウニョン
●出演
チョン・ドヨン、ハ・ジョンウ、キム・ヘオク、キム・ジュンギ、キム・ヨンミン他
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※この先はネタばれが含まれます。まだ観てない方は読まれないことをお勧めします。
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金にも女にもだらしないが、不思議な魅力でいっぱいの男ビョンウン
こういうストーリーだったのか。なんともやられた。すばらしい。また韓国映画にやられた。
脚本の見事なこと!(原作は、平安寿子(たいら・あすこ)の同名短編小説)
ハ・ジョンウの演じるビョンウンがとてもよかった。
金もない、まともな職もつかない、なのに女にはやたらとモテて、返すあてもないのに借金を繰り返す。かといって根っからの詐欺師でも悪人でもない。
きっと神様は、こういう人間に一番微笑まれるのだろうと思った。
この映画にはとても惹きつけられる哲学があった。
ビョンウンは、いわゆるエリート大学を出て一流企業に勤めるような勝ち組ではない。住むところもなく、バッグ一つもって友人宅をふらふらさまよう、賭け事好きのただの貧乏男。普通の人なら、関わり合いたくないと思ってしまうかもしれない。
だけど、彼が元恋人(チョン・ドヨン)に借金を返すためいろんな人を訪ね歩いて頭を下げる姿に、彼ほど愛されている人間もそうそういないんじゃないかとだんだん思えてくるのだ。
この丁寧な描写がすごい!と感動した。
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話が進めば進むほど、ビョンウンを慕う人間が次々と登場する。
会って間もないのに彼を気に入る、通りすがりの女の子なんかももいたりする。
みんなが彼を助けてあげたいと思い、自分が生活するのも苦しいのに金を工面しようとする。ふと、ビョンウンって何者なんだと思った。
どうして彼はこれほどまでに人を魅了するのか。借金まみれのダメダメ男がどうして?
スペインに店を出すなんてバカな夢をビョンウンは見ている。
確かに、それは幼稚で現実味がないのだが、本人はまじめにそれを熱く語る。
まるで小さな子供のように。思わずこちらが微笑んでしまった。
彼は人をバカにしたり憎んだりする言葉を一度も使わない。瞬間瞬間をきれいな気持ちのまま生きている。
なんてことだ。わたしまでビョンウンに惹かれていくのを感じた。
こんな人間になりたい。友達になりたい、と。
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ビョンウンといることで少しずつ変わっていくヒス。対照的な二人が同じ方向を向き始める
カメラは、そんなビョンウンの元へ金を取り立てにきたヒス(チョン・ドヨン)が、ビョンウンといっしょにいることで少しずつ変わっていく様を淡々と映し出していく。
転職もできず、恋人との結婚も叶わなかったヒスは、性格も刺々しさが増し、笑顔のないきつい女性になっていた。
お金を返してくれなかったビョンウンを責め立てる容赦ない言葉と振る舞い。たしかにビョンウンが悪いが、ヒスの言葉は観ているこちらが傷つくほどだ。
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ほんとうにこの作品、奥深いと思った。
借金を繰り返すだらしない人間が、金を貸してあげた人間に勝る。
人間の優劣は人間の浅はかな常識をはるかに超えたところにある。
まったくパラドキシカルなこの条理を呼び起こしてくれたこの作品に、ただただ拍手喝采したい。
人は思い知るべきなのだ。
人の価値は、人智を超えたところにある。
そして、ヒスは、映画を見ていた私そのもの。少しの運の悪さを誰かのせいにして人を責める心に支配される私そのもの。私のささくれだった心を映し出している。
ビョンウンの美しい心がまぶしくてしばらく言葉を失った。
神様はまったく公平だと思えた。
いい作品です。
ここにある、素晴らしい一日を
わたしも送りたい。
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