スリルとサスペンス

チョンウの冴えない弁護士役にほれる!「善悪の刃」(2017)

2019-09-16

本当に法っていうのは人を守るためにあるのか?金持ちだけが得しとる!

作品情報

●評価 3.5★★★☆
●制作 2017年
●上映時間 119分
●原題 재심(再審)
●英 語 題 New Trial
●監督 キム・テユン
●脚本 キム・テユン
●出演
チョンウ、カン・ハヌル、キム・ヘスク、イ・ドンフィ、ハン・ジェヨン他


こんな杜撰な捜査に巻き込まれたら人生終わる!

骨太な映画でした。
深い感動がありました。
事実を元にしたフィクション映画ですが、あらためて事件を深く考えさせてくれました。

弁護士チョンウすばらしかったですね。
韓国の男性俳優の中でも飛びぬけて人気と実力があるチョンウ。

借金だらけで、ファームにも属していないB級弁護士ジュニョン(チョンウ)は「金のために働くんだ!」と豪語していたのに、冤罪のため10年を犠牲にしてきたヒョヌと接していくうちに、出世や金を捨て、一心不乱にヒョヌの名誉を回復するためだけに走り始める。

調べれば調べるほどヒョヌが犯人にされた整合性に疑問がわき、これはでっちあげられた冤罪だと確信する。再審請求を得るために必死に新証拠を探す途中、検察からの圧力、弁護士同僚からの裏切りなど、さまざまな困難を乗り越え、ジュニョンは自分が確信した正義のためだけに奔走し、再審を勝ち取っていく。

事件を必死に捜査するジュニョン(チョンウ)

観賞後、果てしない反芻の時間に入る。
あの場面のあの言葉、どういう意味だったんだろう。
どうやって真犯人をつきとめたのだろう。

この映画のモチーフとなった薬村五叉路タクシー殺人事件(2000年)を調べてみた。こんな事件があったんですね。2000年といえばそれほど昔ではないのに、これだけ杜撰(ずさん)な捜査がなされていたにもかかわらず、それを裁判で違法と棄却しなかったことに恐怖を感じる。だれが犯人にされてもおかしくなかった。

犯人とされた少年は当時15才
2000年8月10日薬村の五叉路でたまたま事件の目撃者だった少年が犯人にでっちあげられ、自白を強要され一審では自白が決め手となり敗訴。
二審では10年が宣告され、上告をすると15年になってしまうかもと脅され上告を断念。ついに刑は確定し、10年の刑期を終えて出所した後、2016年11月再審が確定し無罪になったという。

彼の再審が決定されたのは、検察側の主張する重要な証拠に疑義が見つかったという点と彼が拘束後も無罪を訴え続け、それをソウル首都圏を放送エリアとするSBS「それが知りたい」という人気番組で何回かにわたって取り上げられたからであるという。

番組がとりあげたのは、タクシー内で少年の指紋がどこからも検出されなかたという点、そしてタクシー運転手が肩や胸等12か所もナイフで刺されていたにもかかわらず、少年がもっていた持ち物には一滴の血痕も検出されなかったという点である。つまり検察側は、少年の自白のみで事件を有罪とし、裁判所に送っていたということだ。

また、当時の捜査機関に真犯人にかんする有力情報も入っていたのに、ろくにこれを精査せず調査を終わらせていたことも浮上。これを杜撰といわずになんと言えるのだろう。世論がこの事件に大きな関心をもった。

この事件については、2018年8月8日、文武一(ムン・ムイル)検察総長が「検察が過去の権威主義政権の時代、一部の事件で適法な手続きの順守と人権保障の責務を果たせなかったことについて、国民に深くお詫びする」と正式に謝罪している。昨年の話だ。動画あり(KBS world)。

日本でも冤罪事件は後をたたないが、こういう悲劇をどうやったら少なくできるのか。一人の人間を「有罪ということにしよう」という権力者側の思慮が働いた瞬間に、法律を知らない弱者の人生は狂っていく。

真犯人の悪質性と同じくらいに、捜査権力側の傲慢と杜撰さに背筋が凍る。
今後、AIがどれくらい犯罪捜査にかかわっていくものなのか未知数だが、捜査の適法性の担保は人間が介在しなければ判断できないものであろう。今後も同じ過ちが続くような気がしてならない。

「殺人の追憶」と同じ。人間の尊厳について考えさせられる

この映画は、「殺人の追憶」と同じだ。人間の尊厳について考えさせられる。

たしかに「殺人の追憶」は未解決事件で、この「薬村五叉路タクシー殺害事件」は、真犯人がつかまり解決してはいるが、その捜査の過程では、両者とも同じように違法捜査が横行して誤認逮捕が続出した。
(※2019年「殺人の追憶」の事件(華城連続殺人事件)は犯人の自白により、時効成立後ではあるが、解決済み)

映画の中、胸にぐさりと来る言葉が出てくる。

前半、法律相談の依頼を受けておとずれた弁護士ジュニョンに、自暴自棄になってヒョヌが言う。

「本当に法っていうのは、人を守るためにあるのか」

「な・・・なにが言いたいんだ」

ヒョヌのことを何も知らなかったジュニョンは、他の弁護士が答えるようにとぼけた答しか返せない。

法によって尊厳を傷つけられた人間は、法によって尊厳を回復してあげるしか再生する術はないのである。ジュニョンは事件に真剣に向き合うになって以後、この時のヒョヌの気持ちをすこしずつ理解するようになっていく。

絶望という闇の中を歩きながらも、自分を信じてくれる人をひたすら待つヒョヌ。ヒョヌもジュニョンに出会ってから、かすかな希望を見出して再生という道をやっと歩き始める。
カン・ハヌルは、このヒョヌの抱える深い絶望と孤高を見事に演じていたと思う。本当にすばらしかった。

カン・ハヌル

※ちなみにカン・ハヌルさんはこの映画を収録した後(2017)に入隊し、2019年5月に除隊したそうですね。今年からのご活躍がますます期待できますね。目が離せません。

ちょっと残念だった点

①映画では、ヒョヌが元群山警察署のファン係長と話しているうちに真犯人を突き止め、ヒョヌ自身が真犯人を追いつめていくが、これはフィクションが強すぎて臨場感がすこし薄れる。
この真犯人の追いつめ方をもうすこし自然にしてほしかった。

②また、検察に再審を妨害され、やけっぱちになったヒョヌが昔自分に自白を強要させた刑事に復讐する場面も、胸はすかっとするのだが、これもありえないかなとちょっと興ざめする。

③いつも韓国映画の邦題には感心することが多かったが、この「善と悪の刃」はいただけなかった。法廷での正義を追及するという現実的なイメージがぼやけすぎて、ヤクザの抗争映画かと勘違いする。これではレンタル店でスルーされてしまいもったいない! 邦題の敗北ですね。

以上です。

実在した事件をモチーフにした映画って作るのがとても難しいでしょうね。
実在とかけはなれても興ざめと言われ、実在通りにつくっても観客に満足してもらえない。そのバランスを見極めて作る才能がとても求められる。

それでもこの映画が感動を呼んだのは、10年という刑期を耐え忍んだ人物が現実に存在したという衝撃の事実とそれを支援しつづけた人権派弁護士がいたということ。もちろんチョンウカン・ハヌルのすばらしい演技があったことも言うまでもありません。

是非見てください。
ネタバレ読んでも、ぜったいに感動できる映画ですから。

モデルとなった本人、
パク・ジュニョン弁護士
再審専門弁護士という異名がつくほどの人権弁護士
見応えありました!

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毒女 悦子

韓国映画をみてハッと胸をわしづかみにされたことありませんか?
悲しい時つらい時に韓国映画を見て、心がほんのすこし救われたことありませんか? しあわせを感じたことありませんか?

わたしはたくさんあります。

韓国映画のもつ奥深さになぐさめられたり、息もできない胸苦しさを覚えたり、一日中その余韻に浸ったり、夢の中まで追いかけられたり。 韓国映画に流れるあたたかいもの、残忍なもの、切ない永遠のものに、 ずっとずっと恋をしています。

同じ気持ちの人たちとつながっていたい。

アラフィフ。老後が心配。
でも死ぬまで韓国映画を抱きしめているぞ。

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