ドキュメンタリー

「太陽の下で 真実の北朝鮮」(2015) [ロシア映画]

2019-09-18

ロシア人マンスキー監督は命をかけて北朝鮮を盗み撮った!

作品情報

●評価 4.0★★★★
●2015年制作、2017年日本公開
●上映時間 110分
●監督 ヴィタリー・マンスキー
●出演 リ・ジンミ、お父さん、お母さん他

日常的に洗脳されていく過程がよくわかる

この映画はロシア人監督による、ロシア製映画なのだが、韓国にひじょうに関係のある北朝鮮にかんするものなので、もちろんレビューさせてください。

この映画は、ロシア人マンスキー監督の命をかけた北朝鮮ドキュメント映画である。

彼は2年の歳月をかけて北朝鮮から撮影許可をとり、8才のリ・ジミンちゃんが金日成の誕生日である太陽節を祝う行事に参加するために踊りを練習したり、ご両親が職場で労働模範生として働く姿を撮影していた。

しかし、度重なる北朝鮮側のやらせ的演劇指示に疑問をもち、途中から、許可以外の部分を録画ボタンを押しっぱなしで撮影を敢行。

検閲を何度も受けながらも、やらせ演技以外の生の北朝鮮の人々の生活を撮ることに成功した。ロシアでは北朝鮮から妨害が入り、上映禁止になっている衝撃の北朝鮮ドキュメントである。

正直言って、なんだか複雑でしたこの映画。

だいたいのところは予想をして観たので、意外と驚きもせず、ぶっ飛びもせず観れました。なんと言えばいいのか。「しんみり泣けてきた」という感情のほうが近い。
これについては後半で話しますが、まずは洗脳の過程について。

のっけから、日本憎しの洗脳場面(学校教育)が出てくる。
教科書で習う題材を以下に挙げる。

敬愛する金日成大元帥様は、子供の頃、日本人と地主を恨んでおられました。

とても暑い夏の日でした。敬愛する金日生大元帥様は仲間を連れて、万景峰へ登られました。そこで大元帥様は、地主たちは朝鮮の服を着て朝鮮語を話していても国を売った日本の手下だとおっしゃいました。

そこで仲間たちは、地主が国を売り飛ばした悪者だと初めて知ることができたのです。敬愛する大元帥様は、遊び騒いでいる日本人と地主たちを放っておけませんでした。それで大きな石を手にして崖から投げ捨てたのです。

逃げ出す敵の船を楽しそうに見ながら、こう決意されました。
「今回は運良く逃げられたかもしれないが、今度は許さない。
 我が国から日本人と手下を一人残さず追い払う

このように敬愛する金日生大元帥様は、日本人と地主に思い知らせてやりました。


この日の授業はこれを題材として進められるのだが、これを見ているだけで、幼い子供たちを洗脳していく過程がよくわかる。

まず重要なワードを何度も使って脳に刷り込ませていく。

「敬愛なる金日成大元帥様」
「日本人と地主は悪者です」
「わたしたちを痛めつけ占領した日本人」

このように北朝鮮では、日本と地主(資本主義)は最大の悪者である。

先生が音読し、生徒に復唱させ、次に書いて覚えさえ、さらにまたそれを復唱させる。生徒たちはまるで金太郎の鬼退治の昔話を聞くように、日本憎しの話を目と耳から覚え、心に刻み付けていく。

子供は純粋だ。
先生が質問すると我さきに手を上げ、指名されると、目をきらきらさせながら答える。

「はい。日本は悪い奴らです」
「その通りです。日本は懲らしめなければなりません」

これをただの滑稽な社会主義国家の茶番劇と笑っていられるだろうか。

一つの国にたいしてこれほどの憎しみを幼い子供の脳と心に刻みこませている国家がこの世に存在していることが、改めて信じられなかった。
想定済みとは言え、想定済みをはるかに超えた恐怖を感じた。

こんなかわいい顔をしたあどけない子供たちが小さい頃から「反日テロリスト」として次々と製造されていくのである。こんな偏った常識外れの思想を教え込む異常な国家を隣国にもつ日本の悲劇が、ここにある。

平壌に住む住民は、年がら年中国家行事に参加させられる。世界一いそがしい市民だ。

さて、平壌の人たちは、世界で一番いそがしい市民かもしれない。
いつも踊りやマスゲームなどの行事に駆り出されている。ご苦労様です。

北朝鮮の人口は約2500万人。平壌に住む人たちは約250万人と言われている。
つまり1割にあたる市民こそは選ばれし民である。
平壌という北朝鮮の中では最高に贅沢な場所に住処を与えられて住み、学校で学び、仕事も与えられ、将来も約束されている。

その代わり、彼らには国家的義務が背負わされている。
つまり、平壌で年がら年中ある踊りやマスゲームなどの国家行事への参加であり、一人が欠けても成立しない。

彼らの踊りやマスゲームを見ていると、平壌の人たちは、見事な職業宣伝ピーポーであり、これこそ上級国家公務員だと思う。
朝夕関係なく、召集させられて大声で万歳させられたり、何時間も拍手させられたり、踊らされてばかりいるので、疲れてヘトヘトになる。また常にだれかと一緒にいるので、孤独に思考する暇すらない。

よって、疲れて思考しない人間は洗脳がさらに進み、独裁国家の思うところとなる。この映画を見ていると、悪魔の洗脳サイクルがよく見てとれる。

つくづく恐ろしい。

この映画の見所。洗脳されても残る人間らしさ。抱きしめたくなる子供たち。

北朝鮮の人々はたしかに不幸である。
密室の中で自由を奪われ洗脳され、最先端の技術や世界観からはるかに取り残されていくのであるから。

とはいえ、この映画が見せてくれたものには、意外なものがあった

それは、積年の洗脳教育があろうと、厳しい演技指導を受けようと、人間らしさというのは失われないという気づきである。

「人が繕(つくろ)わない瞬間」とでも表現すべきなのか。
「人としての素朴な喜怒哀楽」みたいなものが、検閲を逃れたフィルムにはたくさんと映っていた。
むしろ、それこそがこの映画が伝えたかったものなのだろうと思った。
人としてのぬくもりを感じる人間北朝鮮である。

たとえば、2月16日、太陽節、大人たちは仰々(ぎょうぎょう)しく、行事を進行することだけに注力するが、子供たちは寝落ちしそうになったり、あくびしたり、きょろきょろしたり、子供らしい愛嬌にあふれている

もちろん、日本の子供のように行儀が悪くない。ほんとうに寝落ちしたら大変なことになることを子供心に分かっているので、完全に寝落ちしない。ふんばって最後まで耐えるのである。

なんともかわいい。抱きしめてあげたくなる。

以下、何点か紹介したい。

寝落ちしそうになっている子供。かわいい。

朝鮮戦争で戦った元軍人の話を聴いて眠くなり、
あくびをする子供。そうだよね。つまんないよね

朝鮮戦争で戦った元軍人。
話し終わって、「次はなにを話せばいいんだ?」と指示を仰ぐ

縫製工場で働く女性。演技指導がされている後ろであくびをする

ジミンちゃん、太陽節で挨拶する直前

とくにこのジミンちゃんが太陽節で挨拶する直前、先生が金日成のことを褒め称えているにもかかわらず、彼女が意外とじっと立っておらず、まぶしいのか手を額に当てたり、体をよじったり、スカーフをいじったりしている姿は微笑ましかった。

金日成にお尻を向けているのにもかかわらず、子供とはいえ、こういう態度が許されるのである。この瞬間、農村へ下放されてもおかしくないんじゃないの? えーーー?!という驚き。

わたしたちはどんな時も動じずアンドロイドのように「元帥様万歳!」を狂信的に叫ぶ北朝鮮の人の姿ばかりをイメージしてきたが、このようにスイッチオフの場合は、北朝鮮の人たちも(子供はとくに)、人間らしさが前面に出てしまう。

元帥様のことより、眠たいし、だるいし、腹がへるのである。
あたりまえだ。

愛すべき北朝鮮の人たち。
わたしは彼らがもしも目の前にいたら、すぐに友達になれるような気さえした。

ちょいと気になったシーンたち

1.学校の教室で、子供たちが手を挙げるシーン。

 北朝鮮では、日本のように片手をただ上に挙げるのではなく、ウルトラマンビームのようなポーズをとるみたいだ。かわいかった。

2.豆乳工場で使われている車は、ニッサンの中古車なのか?

トラックの前に書かれた文字がNISSANと読める。どうしてにっくき日本の車を使ってるのか? これはNISSANじゃないのか? だれか教えてくださーい。

3.トロリーバスに人がたかっている。なんだこれは?!

 平壌のトロリーバスは、電力不足から区間中しょっちゅう停電が起き、そのたびに通電するところまで人々が手で押していくという。バスが人を助けるのではなく、人がバスを助けてる。本末転倒の国家だね。びっくりだった。


演技指導のお粗末さ。センスのなさ。

北朝鮮がマンスキー監督に許可したのは、自由な映画撮影ではなく、北朝鮮側の演技指導が入ったフィクション映画であった。
それは、北朝鮮こそが「この世の楽園」であり、人々が最高に幸せに暮らせる場所として世界に宣伝してもらうことだった。

しかし、それにしても、この演技指導が最高にひどい!
前近代的といっても言い過ぎではない。

なぜ北朝鮮は変わらないのか?
何十年も前から同じポーズ、同じセリフ、同じ表現。
第二次世界大戦以後、世界はめまぐるしく変わってきており、世界観も変遷を遂げてきている。この世の楽園と伝えたいのなら、なぜ韓国のようにK-POPみたく人材を育て、かっこいい路線で世界にアピールしないのか? (モランボン楽団はおいといて)単純に不思議に思うのである。

たとえば、朝女の子たちが学校にくる。
彼女たちは、机を拭きながら歌いだす。

「こんなに高貴で美しい国は、この世のどこにもないだろう~♪」

あう。・・・もうためいきが出る・・・
最高にださい!のである。誰がこんなの信じるのか?
これが北朝鮮が世界にアピールする最高演技指導だとすれば、もう死んでいるといっていいと思う。終わっている! 世界は永遠に振り向かない。

検閲するならそれでもいい。だって独裁主義国家だから。
でもお願いだから、もうすこしましな演技指導をしてほしい。
うわ!北朝鮮ってかっこいいなぁとか、行ってみたいなぁ、金日成のライブ行きたい!追っかけしたい!って思うようなイメージ作りってできないのかと思う。

70年間ずっと同じ表現方法・・・。

「ここで拍手をして」
「元気に明るく大きな声で」
「ここで大きくうなずいて」

おねがい。
敬愛なる金正恩様、
国家予算をつけて演技指導の技術をもっと向上させてください。以上。

  • この記事を書いた人
  • 最新記事

毒女 悦子

韓国映画をみてハッと胸をわしづかみにされたことありませんか?
悲しい時つらい時に韓国映画を見て、心がほんのすこし救われたことありませんか? しあわせを感じたことありませんか?

わたしはたくさんあります。

韓国映画のもつ奥深さになぐさめられたり、息もできない胸苦しさを覚えたり、一日中その余韻に浸ったり、夢の中まで追いかけられたり。 韓国映画に流れるあたたかいもの、残忍なもの、切ない永遠のものに、 ずっとずっと恋をしています。

同じ気持ちの人たちとつながっていたい。

アラフィフ。老後が心配。
でも死ぬまで韓国映画を抱きしめているぞ。

-ドキュメンタリー
-, ,

Copyright© 韓国映画に悶える女のブログ! , 2020 All Rights Reserved Powered by AFFINGER5.