実際の事件がモチーフ。監禁と賃金滞納で奴隷のように働かせる鬼畜塩田業者!

作品情報
●評価 2.0★★
●原題 섬. 사라진 사람들(島、消えた人々)
●制作 2015年
●上映時間87分
●監督 イ・ジスン
●脚本 チャン・ジェイル,イ・ジスン
●出演
パク・ヒョジュ、ペ・ソンウ、イ・ヒョヌク、リュ・ジュンヨル他
あらすじ
イ・ヘリ(パク・ヒョジュ)は公共ニュースの記者である。後輩でカメラマンのソクフン(イ・ヒョヌク)とともにある離島の取材に渡った。
島には塩田があるが、そこでは知的障害者がだまされて連れて来られ、奴隷のように働かされているという噂があった。ヘリとソクフンは、塩田の製造取材をしたいと装い、島の人たちに話を聞こうとするが、塩田業者を気にしてか、なかなか口を開いてくれない。それどころか、この島のことを探るなと二人にきつく忠告する。
ますます怪しいと思ったヘリとソクフンは、違法とは知りながらも塩田業者の家や倉庫に不法侵入を繰り返して、決定的な証拠を得ようとする。
ある日、知的障害者のサンホ(ペ・ソンウ)がひどく殴られて出血しているのに気づいた二人は、自分から落ちてケガをしたと言い張るサンホを根気強く説得して、真実を聞き出すことに成功する。やはり殴ったのは塩田業者の社長、ホ氏(チェ・イルファ)であった。息子のジフン(リュ・ジュンヨル)も強制労働の共犯であった。
塩田業者の事務所から偽造された労働契約書を手にした二人は、地元の警察署に告発する。しかし、渡島した警察官は塩田業者と賄賂関係にあり、形だけの職質をして帰ろうとする。サンホも仕返しが怖くて前言を翻し、ホ親子からの暴行を訴えようとしない。
警察が全く頼りにならないことを知ったヘリとソクフンは、広域捜査隊に応援を頼み、いったん島を離れることを決める。しかし、二人はその日の内に何者かに襲われる。だれが二人を襲ったのか? はたして二人は生きて島を離れることができるのか?
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※以下はネタバレがあります。観ていない方は読まないことをお勧めします。
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2014年発覚した新安塩田労働事件がモチーフ。実際の事件はもっと過酷でひどい
2019.10.18記
2014年に発覚した実際の事件がモチーフである。
新安塩田奴隷労働事件。全羅南道新安郡にある島、曽島の塩田で多くの知的障害者が悪質職業斡旋業者にだまされて連れて来られ、強制労働させられていた事件は韓国社会を驚かせた。その被害者は100人以上にのぼったという。
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塩田に奴隷として送りこまれた彼らは粗末なところに監禁され、食事も満足に与えられず、20時間以上働かされるも賃金は未払い、睡眠は5時間以下だったという。暴行を日常的に受け、骨折しても手当もされない劣悪な環境に置かれていた。
彼らのほとんどは島以外では生きていけないと洗脳されていたが、もし脱走したとしても島民の通報により塩田業者に連れ戻されたという。つまり、塩田業者の悪質な強制労働は、島ぐるみで行われていたのであり、加えてそこを管轄する警察までもが業者に賄賂をもらって見て見ぬフリをしていたという構造的な問題があった。
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また、韓国での天日干しの高級塩はほとんどが全羅南道新安郡から作られるが、この内、大規模塩田業者がこの知的労働者を食い物にして強制労働をさせていたことから、事件後は大きくブランドに傷がついたという。朴槿恵大統領も事件の再発防止を命じている。
こんなひどい事件が、この2000年を過ぎても先進国韓国に存在していたのであるから驚きである。日本も他人事ではない。法律の網をすり抜け、海外から「研修生」という名で外国人を受け入れて、低賃金で労働を強制させるケースは後を絶たない。希望をもって来日してきた外国人の夢を壊す悪質なブローカーの存在は日本も韓国も同じだ。
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唐突な連続殺人事件のぶっ込み。違和感がぬぐえず、作品が陳腐なものに。
正直、イ・ジスン監督が塩田奴隷労働事件をモチーフにして何を映画で訴えようとしたのかがはっきりと見えない。
実際の事件を映画に用いるというやり方は、意外と難しい。
仮に二つ方法を考えてみよう。
①奴隷労働事件を純粋に追及して、最後まで徹底的に塩田業者と記者を対決させる。記者は度重なる取材妨害にも関わらず、これを乗り越えて世間にこの非道を知らしめるという成功物語。そこに恋愛をからませてもいい。
②(この映画のように)これを取材して真相を暴きだそうとしたが意外な結果がまっていたとする展開。つまり、本作品のように知的障害者の中に15年前の連続殺人犯が潜んでいて、記者は殺されそうになるが、ひるまずに取材を続けるという成功物語。
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監督は、意外性をからませた②を選んだが、カメラマンは殺害され、主人公のヘリ記者は半殺しの目に合わせられてしまう。つまり不成功物語である。
最後、ヘリがこの事件の犠牲者の墓参りするところで映画は終わるが、彼女の心によぎったものは一体何っだったのだろう。それこそがこの映画で表現したいことであったはずだ。
①あんなバカな取材をなぜやったのだろう?
②なぜサンホの異常性に気が付かなかったのか?
③なぜもっと慎重に取材をしなかったのか?
④なぜこの映画に出てしまったのだろう?
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こんなとこだろうか。いずれにしても、映画として訴えたいこととしては小さくて観客の胸に訴えるものがない。(④は書いた奴だれよ?!)
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世界規模で見ても、非常にショッキングなこの事件を人道的に深く掘り下げる気概もなく、事件を妨害されても闘い続けたわけでもない上に、障害者がいきなり特上の連続殺人犯となって襲いかかってくる。
この荒唐無稽さには少々後ずさりした。
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社会派の映画のように見えたのに突如ホラーの域に入り、見ている観客は「どっち行くの?」となる。それでも、連続殺人犯とのおもしろい絡みが続くのかと期待したのに、そこで時間切れ。ウォン・シニョン監督のように2時間映画はできないのか?
ペ・ソンウ演じる連続殺人犯はなぜ15年もの間、過酷な労働と暴行に耐えられたのか? なぜすっと消えてしまわずに、また殺しを再開したのか? この陳腐な謎は永遠に解けることがないだろう。監督がそこまで考えて製作したとは思えない。
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ひじょーに、中途半端で違和感ありました。
社会派でも中途半端、ホラーでも中途半端、サスペンスにもならなかった。
わたしに残されたのは、約1時間つづいた手ぶれカメラによる頭揺れと、ひどい嘔吐だけでした。今でも頭揺れと嘔吐感がひどい。げろげろ。
惜しいですね。予算がなかったのかなこの映画。
愛するペ・ソンウのぎらぎらした猟奇性だけは宝となりましたが。
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