スリルとサスペンス

クァク・ジェヨン監督が再び泣かせる!「時間離脱者」(2016)

2019-10-29

人は愛する人と何度もめぐり会う。韓国映画の王道に胸が熱くなる!

作品情報

●評価 3.5★★★☆
●制作 2016年
●上映時間 107分
●監督 カク・チェヨン
●脚本 コ・ジョンウン
●出演
イム・スジョン、チョ・ジョンソク、イ・ジヌク、チョン・ジニョン、イ・ギウ、オン・ジュワン、イ・ミノ、キム・ボラ、シン・ジス(TAHITI, Kpop)

あらすじ

ユンジョン(イム・スジョン)チファン(チョ・ジョンソク)はともにソギョン高校で教師をしている。1982年大晦日、二人は街の広場でカウントダウンを祝う。プロポーズするチファンにうなずくユンジョン。

その時、チファンがユンジョンの財布を盗んだ男に気づき、追いかけるが、腹を刺されてしまう。目を開けるとユンジョンが傍らに付き添い寝していた。その日から、次々と不思議な夢を見るようになったチファン。それは32年後の予知夢だった。夢の中に登場する男は刑事だった。刑事は過去の未解決連続殺人事件を調べていた。事件の最初の被害者ファイルには、なんとユンジョンの名前が書いてあった。

驚愕するチファン。大切なユンジョンが殺される運命にあるのか。彼女を救わなければ。必死になって運命を変えようとするチファンだったが、ユンジョンは予知夢の通り首を切られて殺害されてしまう。しかも犯人は被疑者ヒョンチョルではなく、別人だと判明した。

一方、チファンの夢に登場した刑事ゴヌク(イ・ジヌク)も、連日不思議な夢に悩まされていた。なんと彼も、2014年大晦日のカウントダウンで窃盗犯ともみ合っている最中に重傷を負い生死をさまよって以来、チファンという男の夢を鮮明に見るようになっていた。

チファンとゴヌク。不思議なことに、二人はカウントダウンの日以降、32年の時空をまたいでお互いの過去と未来を知るようになる。

恋人ユンジョンの命を救えなかったことから傷心するチファン。しかし、彼はまたしても予知夢で学校講堂の大火災を知る。49人もの死亡者が出ていた。当日、消火器をもって講堂に向かい、火災から生徒を救出するチファン。今度こそ運命を変えようと願いながら。

一方、ゴヌクは夢に出てきたチファンの恋人ユンジョンに似た女性ソウン(イム・スジョン)を防犯カメラで見かける。ソウンを守らなねばという心の声に従って、警護のためにソウンを尾行するゴヌク。ソウンは彼を露出魔と誤解して警察署に突き出すも、本当に刑事だとわかり、二人は仲直りする。

ゴヌクはソウンに夢の話をする。二人でソギョン高校に行くが、そこには火災の痕跡もない講堂が建っていた。チファンが消化したことで、運命が変わっていたのだ。救出された生徒も32年経った今も生存していた。運命が変わったことを喜び合うゴヌクとソウン。

ある日、ゴヌクはソウンとデートの約束をとりつけるが、予定の時間になってもソウンは現れない。32年前の女性連続殺人事件の犯人は依然捕まっていない。イヤな予感に襲われるゴヌク。ラジオからニュースが流れる。ソウンの車と同ナンバーの車が崖から転落し、運転手は行方不明になっていると。これは偶然の事故なのか。はたまた計画された犯罪なのか。ゴヌクは現場に急ぐ。



※以下はネタバレが含まれます。まだご覧になってない方は読まないことをお勧めします。


「猟奇的な彼女」のカク・チェヨン監督! また胸をわしづかみにされた!

猟奇的な彼女」「ラブストーリー」「僕の彼女を紹介します」のカク・チェヨン監督の作品なので、まちがいはないと思ってはいたが、期待どおりの出来映えだった。すばらしかった!

たしかに、最初のシーンから過去と未来が交差して分かりにくいというレビューがあるが、10分もするとほとんど気にならない。時世によって、スクリーンを覆う色調も変わるので観客が見やすく作ってある。

カク・ジェヨン監督はこのように時を超えてもめぐり会う作品が得意だ。人生は偶然ではなく、すべてが必然だと叫んでいる作品ばかりだ。

観る前からわたしはワクワクして仕方なかった。今度はどんな切ない気持ちにさせてくれるのだろうと。彼の映画はほんとうに切なくて、たくさん涙が出た後、心が軽くなるようなそんな映画だ。ひねくれ者の私でも素直に頭を垂れてしまう有り難い説法というか。人生とはたしかに面倒くさくてつらいことが多い。しかし、遠い先に希望があるのだと思わせてくれる。

邦題「時間離脱者」は、原題「시간이탈자」そのままだ。最初、なにをもって「離脱」と意味するのか曖昧模糊(あいまいもこ)としたのだが、わたしは「不幸」な未来を変えるために時間という「神の領域から離脱する」という意味と捉えた。そこには、未来を変えてやるんだと力をふりしぼる者にしかない強い「挑戦力」を感じる。「挑戦力」は、成功しようが終いが結果など関係ない。

この映画は、観れば分かるが、そこらのラブコメとは異なる人間の普遍性を深く問う作品である。チープな題目をつけても作品が安っぽくなるだけである。この「時間離脱者」は、時間と言う神に挑戦した者たちの飽くなきアップデート記録である。

変わらない美しさイム・スジョン、安定したチョ・ジョンソク、新鮮なイ・ジヌク

いろいろ想像してみたが、イム・スジョンがこの映画のヒロインを演じてくれて、ほんとうによかったと思っている。

もちろん、他にもステキな女優さんはたくさんいて、若い役者も育ってきているが、童顔女優No.1と異名をもつイム・スジョン(当時37才)が20代を演じても全く不自然さがない上に、ユンジョン役もソウン役もほんとうに魅力満載に演じてくれた。スジョンの変わらない童女感は男性から見たら、嫁さんにしたくなる女性そのものであり、女性からも大きな好感がもてる。この二つの役はイム・スジョンがもつ子供のような可憐さがあってこそ成立したと思う。

左)チファン(チョ・ジョンソク)、右)ゴヌク刑事(イ・ジヌク)

また、チョ・ジョンソクとイ・ジヌクの安定した演技もすばらしかった。

とくにチョ・ジョンソクは何を演じさせてもすこぶる上手だ。ヤクザのチンピラから先生、料理人と汚れ役でも紳士役でも何でもこなせて、悪役なのになぜか情が移ってしまいそうになる存在感のある役者。この点、パク・ヒスンと似ているような。こういう役者の存在は映画を成立させる上でなによりも有り難い。

イ・ジヌクはいつもの通り。おっちょこちょいだが一生懸命でまじめ、好青年が服着て歩いているのがはまり役だ。今回のゴヌク役もそのものずばり。キャスティング最高! 一度彼に成金役や売春宿の薄汚いデブ親父をやってもらいたいと思うが、イメージが邪魔して無理だろう。想像さえできない。こういう役は・・・あ、マ・ドンソクさんに任しておこう。

この映画を貫くもの。韓国的情念「恨」を越えて生きること。

近10年の韓国の日本に対する異常な非妥協的態度を見ると、「恨」と聞くとすぐに「反日」を想像してしまうのだが、そもそも韓国文化にある「恨」とは「反日」を基定としたものではなく、反日以前の朝鮮文化独特の思考様式であるという。人生における悲哀や痛恨、無常観を指すと言われている。


強国に陸続きで囲まれた朝鮮半島は昔から大国の侵略に脅かされ、内国の憂患も相まって、小さな大地に多数の朝鮮人が息を殺しながら生きてきた。富める者は海外に移住して財産をさらに築くことができたが、そうではない者は競争の激しい学校や職場で生きて来ざるを得なかった。思うようにならない場合、日本人は「人生とはそういうものだ」と流すが、韓国は「なぜ思うようにならないのだ」と地団駄踏む。

「恨」とは、思考という文化に過ぎずこれを是非で語ることは良くない。恨的思考の載積で文学や芸術は花開くことは知られているし、スポーツや勉強、恋愛も場合によっては恨によって開けていくのである。

しかし、恨が功をなすのは、それが乗り越えられた場合に限る。その意味で、「恨」とは諸刃の刃をもつ危険なナイフだ。韓国人でもこの「恨」を誤解している人が多いように思う。恨に縛られず、乗り越えてこそ、私たち外国人は韓国的文化に感動する。

犯人を捕まえなければ、来世のソウンまで殺されてしまう。
チファン(右)とスンボム(左)は二人で犯人に立ち向かう

この映画においてもそうである。
チファンは、最愛の恋人ユジョンが殺されてしまった。彼女と生きることがこの世のすべてであったこと。それが果たせなくなったこの「恨」を、32年後の自分のために乗り越えようとする物語である。

チファンとゴヌクは最初はお互いの正体が分からなかったが、チファンは予知夢を、ゴヌクは過去夢を見ることで、お互いを知っていく。チファンはゴヌクであり、ゴヌクはチファンなのだ。来世の自分を予知夢を通して知り、今生で守れなかった愛する人が来世で幸せに生きてもらいたいと思い、チファンは今生で犯人を捕まえようとする。

確かに、チファンが過去を良い方向に変えてくれなければ、ゴヌクの今は悲惨なもになることは間違いない。しかし、だからといってゴヌクの人生はチファンに全て規定されているわけではなく、ゴヌクはゴヌクで自分の人生を少しでもよくしようと生き、その情報をチファンの予知夢にせっせと渡している。つまり、二人の人生は一つの良き魂に貫かれた「一つの人生」として生き生きと輝く。

この映画が目指したさすがの展開であり、最高に心がときめくところであった。

時を超えて生きる恨パワーのすばらしさですね。
カク・ジェヨン監督の恨マジックに乾杯です。

ソウンとカン班長の死。なぞめいた展開に観客は言葉が出ない・・・

チファン先生に今生のアップデートを託してカン班長(チョン・ジニョン)は自死する

ソウン(イム・スジョン)がトンネルで轢死され、死んだソウンを抱いて雨の中、大声で泣きじゃくるゴヌク(イ・ジヌク)の姿を見て涙腺崩壊した人は多かったのではないか。二人があまりに可哀想で、またソウン(ユンジョン)が今生でも死んでしまうのだ。しかも、ソウンを死に追いやった張本人が警察官のカン班長(チョン・ジニョン)なのである。監督はどうしてこんな無茶振りができたのだろうと悩むシーンだ。

たぶん多くの観客が「このシーンさえなかったら」と唖然としただろう。なぜカン班長がソウンを拉致する展開になったのか? 彼女を保護したかったのであれば合法的に隔離すればよかったのに、よりによってガスマスク男に扮して強引に拉致し、森の中に手足を縛って監禁するのだ。何を考えているのか。


過去、チファンの生徒であったカン班長は、自分がガスマスク男に扮してソウンを殺そうとするのをペク先生(チファン)が予知夢で見たら、ユンジョンだけでなく、自分の妻をも殺したガスマスク男を、ゴヌクと二人して捕まえてくれると思ったからと言う。そしてソウンが自分の浅はかな計画で轢死してしまったことから、自分という殺人者を殺してくれとゴヌクに頼み、チファンが予知夢でこれを見ていてくれることを祈りながら、自分の頭を撃ち抜いて死んでしまう。壮絶だが、あまりの幼稚な計画に唖然とする。

チファンは、予知夢でしっかりとこの展開を見ていた。カン班長(カン・スンボム)が命をかけて自分に託したもの、ガスマスク男がユジョンを殺し、将来自分の生徒(カン班長)の妻を殺し、はてはそれが原因で来世のユジョン(ソウン)まで死んでしまうことを。最後、チファンはゾンビのように甦るガスマスク男と死闘を繰り返し、この世からこの殺人鬼を消すことに成功する。

轢死して死んでしまうソウン。
今生でも別れる運命なのか。泣きくずれるゴヌク刑事

一方、ソウンであるが、たぶん、監督はなんとしてでも、ソウンを一度は殺さねばならないと思ったのだろう。なぜなら死ぬことで、運命がアップデートされて「生きている」ことになった時、その愛しさや感謝は二倍にも三倍にもなるからだ。ましてや、それが愛する人であればなおさらである。

最後の最後、アップデートされた現在がスクリーンに現れる。

校門でぼんやり立つゴヌクを何もなかったかのように、ソウンが腕を引いて歩き、職員室に連れて入る。32年前と変わらぬソウン(ユンジョン)の軟らかい手の平がそこにあった。

ゴヌクは刑事ではなく、音楽の先生としてアップデートされていた。目の前には死んだはずのカン班長が教頭先生になって不良生徒に説教している。愛しい人たちが、漫画のようにその場所で新しい人生を生きていた、ゴヌクは思わず笑ってしまう。うれしくて幸せな瞬間に心から感謝の気持ちがわく。愛する人が目の前にいて、ニコニコと太陽のように笑ってくれていた。

チファンの32年の「恨」が報われた最後のシーンに、すべての霧が晴れて、心があたたかくなった観客は少なくなかっただろう。これを名作と言わずして何と言おうか。

「時間離脱者」
何度も見直したくなる作品である。

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毒女 悦子

韓国映画をみてハッと胸をわしづかみにされたことありませんか?
悲しい時つらい時に韓国映画を見て、心がほんのすこし救われたことありませんか? しあわせを感じたことありませんか?

わたしはたくさんあります。

韓国映画のもつ奥深さになぐさめられたり、息もできない胸苦しさを覚えたり、一日中その余韻に浸ったり、夢の中まで追いかけられたり。 韓国映画に流れるあたたかいもの、残忍なもの、切ない永遠のものに、 ずっとずっと恋をしています。

同じ気持ちの人たちとつながっていたい。

アラフィフ。老後が心配。
でも死ぬまで韓国映画を抱きしめているぞ。

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