スリルとサスペンス

イ・ウンジュを忘れない「スカーレット・レター」(2004)

2019-10-02

2人の女の報われない片思いが狂気を呼ぶ。衝撃のラストにあなたは耐えられるか!?

作品情報

●評価 4.0★★★★
●制作 2004年
●上映時間 118分
●原題 주홍글씨(朱紅の文字)
●監督 ピョン・ヒョク
●脚本 ピョン・ヒョク
●製作 エイジェイフィルム㈱
●出演
ハン・ソッキュ、イ・ウンジュ、ソン・ヒョナ、オム・ジウォン、キム・ジングン、ヤン・テド、ト・ヨング

あらすじ

ある日、写真館の店主が殺される。死因は、頭部への激しい殴打による心臓麻痺。ギフン刑事(ハン・ソッキュ)は第一通報者の妻ギョンヒ(ソン・ヒョナ)の犯行と疑う。ギョンヒは無実を訴えるが、夫が死んだのに悲しむ様子もない姿が不自然であり、彼女が夫を殺して愛人と一緒になりたかったのではないかと警察は捜査を続ける。

夕方、ギフンは家にまっすぐ帰らず愛人カヒ(イ・ウンジュ)の店に寄る。ジャズシンガーのカヒは高級マンションに住み贅沢な暮らしぶりだ。ギフンは清楚で従順な妻スヒョン(オム・ジウォン)がいるにも関わらず、カヒと逢瀬を重ねていた。

スヒョンは二人の関係を知っていたが、妊娠していたこともあり口には出さずにいる。チェリストでもある彼女は家庭と仕事に集中しようとする。しかし、運命は残酷だ。同じ時期にカヒもギフンの子を妊娠しているのを知り、3人のむき出しの嫉妬は複雑に絡まり合っていく。二人の女性を同時に妊娠させ、二人とも愛しているギフンは関係を整理することもできずにずるずると続けていく。

写真館の店主殺しに進展があった。妻ギョンヒがチンピラ(ヒョクチェ)に金を渡して殺させたのではないかという疑いが強まった。逮捕に向けてあと一歩のところまできた警察だが決定的な証拠が見いだせない。

カヒという身辺に大きな火種を抱えるギフンは事件を解決できるのか。妻のコンサートや警察署まで平気で訪ねてくるカヒの行動は、度を超えて常軌を超える一方だ。発火寸前の導火線がそこまでくすぶっていた。



※この先はネタバレが含まれます。未だ作品を視聴していない方は、読まないことをお勧めします。


むき出しの人間の本性を見つめる作品。今もなお色あせないすばらしい映画。

          
2005年頃に複数回見た覚えがある。
その時は、なんてイヤな映画だろうと気分が悪くなったのを覚えている。
明るくみずみずしい演技をするイ・ウンジュさんを「永遠の片思い」で観た後だったが故に、あまりの違いに気分が落ち込んだ。まだまだ子供だったんだなと思う。

だが、今この映画を再度観賞して自信をもって言える。
とても好きな映画の一つになった。男が女に、女が男に、女が女にたいしてむきだしの、薄汚れた感情をぶつけ合う作品だ。渦めく感情の波に圧倒されながら、狭いトランクの中で悲劇的に終わるこの最後のシーンが、イ・ウンジュさんの人生を象徴しているようでつらいが、わたしには忘れられない映画となった。

個人的にハン・ソッキュがあまり好みでないことと、映画の中で役柄とはいえ煙草を吸いっぱなしだったのを見て、「頭痛を呼ぶ映画」だと忌々(いまいま)しく思ったが、それ以外はほんとうに印象に残るすばらしい映画といえる。

妻スヒョンが失恋を受け入れなかったがゆえに起こった悲劇。女同士の恋愛と憎悪の果て

1. 人間をえぐる韓国映画の真骨頂!

この映画を最後まで見た方は分かるのだが、この物語はスヒョンのカヒにたいする異常な片思いに始まった悲劇だ。そう。女性同士の恋愛がそこにあった。

最後まで見てそれが分かったわたしは、この映画がとんでもない名作だな!と思えるようになった。初期韓流ブームの頃の、少し古いが忘れられない感性を秘めた作品。

スヒョンの愛する人はたった一人、カヒだった

この映画、あらすじだけ読むと、よくある男女のどろどろ物語で、女にだらしないギフン(絵に描いたクソ最低男!)と彼と離れられない愛人カヒの不倫物語に見える。

強引で物怖じしないカヒに比べて、清純で順々な妻スヒョンが対照的で、観客はだれしもがスヒョンみたいなステキな奥さんをどうしてギフンは裏切るのだ!? あの男はけしからん! そして、他人の家庭を壊そうとする悪魔のような女カヒ許さん!という対立構図を描いてしまうのだが、実際はまったく違う世界がそこにあった。そこがすごく意外でおもしろかった。

それは、スヒョンが今も昔もずーっと愛してきたのは、カヒであり、カヒ以外にいなかったということ。

この事実がわたしには衝撃的であり、この映画が比類なきものになった所以である。スヒョンは音楽を通じて知り合ったカヒと恋仲になり、二人は愛し合っていた。スヒョンはチェロ、カヒはピアノ。かろやかに織りなす音楽のように二人の関係はずっと続くように思われたが、ある日カヒがギフンに出会ったことから二人の関係は変わっていく。

カヒはギフンに夢中になり、スヒョンと別れることに。
一方、スヒョンはカヒをどうしても忘れられない。ギフンが自分に好意をもったことを利用してスヒョンはギフンを奪い、二人は結婚する。こうすることで、スヒョンはカヒの近くにいることができると思ったからだ。ギフンを愛していたからでない。あくまでカヒを愛していたから、ギフンと結婚した。

つまり、愛する人を奪われたのはカヒであり、カヒこそが被害者であった。

カヒは愛するギフンを奪われ、つらさの中忘れようと何度も努力をするが忘れられず、ずるずるとギフンとの関係をつづける。一方、スヒョンは教会に行き懺悔室で告白する。自分が愛してもいないギフンと結婚したことから、カヒを苦しめつづけてきたことを。

ぞぞぞと背筋が凍りませんか?このあたり?
ええ!? 人間ってほんとうはこうなの?
これこそが「人間をえぐる韓国映画」の真骨頂だと思いました。

わたしはもしもこの映画が、ただの男と女の不倫という火宅物語であったら、あまりにも平凡すぎて印象に残らない作品で終わったと思う。しかし、最後に、このスヒョンのカヒにたいするストーカー的な異常愛が明らかになった時、心底めんくらった。すごいパンチ力だった。狂喜だった。

清楚で従順なスヒョン

2.よく練られた脚本。最後まで観客をあざむき通した!

また、脚本がうまくできていた。

スヒョンが一度もカヒを憎み、カヒにいじわるをするという演出がなかった。もしスヒョンがそんなことをしたら、観客はどう感じただろう。もしかしたら観客はカヒに肩入れしたかもしれない。

だが、この映画はスヒョンをあくまで夫に尽くす理想の妻として設定し、その妻が夫とその不倫相手に家庭を壊されていくというか弱き被害者として描く。そうすることでひたすら観客をあざむき、最後の最後であっというどんでん返しをかましてくれる。最終ラウンドでの見事なアッパーカットに観客は声も出ない。

おとなしい清楚な顔をして、好きでもない人と結婚をしてまで、好きな人を束縛していたいという常識を超えた考えをもつスヒョン。こんなスヒョンを憎めないと感じてしまうのは二人の女を妊娠させたにも関わらず深い反省をしなかったギフンが悪すぎたせいからだろう。

(そうだ!おまえが悪いんだハン・ソッキュ!)

私はスヒョンを一片も憎むことができなかった。
むしろ、哀れに感じ、彼女の長年カヒに注いできた愛に理解を示した。
(まんまと監督の仕掛けた罠にはまったのよねわたしは)

想像できない! トランクという閉鎖された中での地獄の4日間! 

逃げ場のない車のトランクでもがきつづける二人。
地獄の時間はゆっくりと進んでいく。

スヒョンの一途すぎる狂気の愛に集中してレビューを書いて終わるつもりだったが、映画の最後のトランク内での血のもがき」にまったく触れないというのも変だと思ったので、すこし振り返ってみようと思う。当時やはり話題になったのはこのトランクの中での恐ろしい悲劇であり、映画でもかなりの時間を割いている。

2人がトランクに閉じ込められる映像は1時間27分頃から始まる。映画は2時間の長編だが、助け出されるまで、色々な回想を交えても20分ぐらいはトランク内の地獄の映像が流される。

カヒが冗談でトランクを閉めたのが原因だが、トランクはその後4日間開くこともなく沼地に放置された。トランクの中に閉じ込められた二人には地獄がまっていた。

カヒは、こんな大参事になるとは思っていなかったのだろう。浅はかと言えば浅はかであり、天罰といえば天罰だ。自分たちの欲望だけ追って暮らしてきた人間に訪れるのはやはりこういう顛末か。

ピョン・ヒョク監督は、トランクでの2人の精神状態を絶妙に表現している。
最初は、トランクの中で軽く冗談を言って笑っていた2人が、どうもがいても開かないトランクに次第に焦りはじめ、もしかしてこのまま死ぬのではないかと怯える。ギフンはスヒョンの名前を連呼して帰りたいと泣き叫び、カヒもお腹が破水して大量出血すると、正気を失ったように慌てふためく。

「出たい」
「帰りたい」
「おまえのせいだ」
「もう耐えられない。殺して」

数時間前まで「愛している」とささやき合っていたのは幻だったのか。お互いをののしり合い、疲れ果て、最後には「死なないで」「生きていて」「愛している」と懇願し合う二人。汚物と出血でトランクは地獄と化している。

まるでシェークスピア劇を見せられているかのような高い芸術性
息をのむ。

私には、ギフンが銃(シグザウエルP226)をもっていたにも関わらず、どうしてトランクの鍵を内側から破壊して出てこれなかったのか不思議に思えた。むだに銃を売って弾をムダにしてしまうシーンもあったりして、結局残された弾でカヒを撃ち殺している。

閉じ込められたトランクの中から出るということは銃をもっていてもこれだけ難しいことなのか。脱出用ハンドルってトランク内に備わってなかったのか? だれか知っていたら教えてくださーい。

その他気になったこと。男の煙草と女の音楽的才能

1.こら、ハン・ソッキュさん、煙草吸いすぎ!

最後のシーンまで、ぜったいに煙草は離せない。


冒頭にも書いたが、ハン・ソッキュ演じる主人公ギフンが煙草を吸いすぎる。とにかく煙草中毒なのだ。歩きながら煙草、人を会話する時もほとんど煙草、煙草に火をつけたり、吸ったり吐いたり。
(あ、イ・ウンジュ扮するカヒも吸いますが、ギフンの比ではありません)

時代なんでしょうね。この頃の韓国映画みんなに共通しているのだが、煙草のシーンが腐るほど出て来る。共演者もぜんぶ煙草を吸わされているのだろうが(受動喫煙)、もう観ていて胸糞が悪くなるぐらい煙草、煙草なのだ。煙草の煙が映像を覆いまくる。

大げさに言えば、
韓国映画って、演技もへったくれもないと思えるぐらいだ。

とにかく、煙草に火をつけ、これを吸い、吐き出す間に覚えてきたセリフを言えばいいのだから。相槌を打ちながら一服吸い、考えている合間に吐き出して、相手の顔を見ながらまた吸い込み、灰が落ちそうになったら、灰皿に手を動かすという。その作業の中での演技。演技が主体なのではない。演技は、喫煙の中の一作業としてある。

嫌煙家にはつらいですねこの映画。
頭痛をもよおします。要注意。

2.オム・ジウォンさんはチェロ、イ・ウンジュさんはピアノ。音楽的才能もある二人

この映画には、楽器を趣味としている役者さんでしか出来ないシーンが出て来る。例えば、イ・ウンジュさんはジャズシンガー役だけあって、ピアノを弾く姿。オム・ジウォンさんはチェリストという役柄なのでチェロを弾く。

代役を使ってやっているのかと思ったら、なんとそれぞれ本人が楽器を使いこなしている。イ・ウンジュさんはそもそも幼少からピアノを習っていてピアニストになるのが夢だったぐらいの腕前。オム・ジウォンさんはヴァイオリンを特技としていて、チェロはこの映画のために朝から晩まで必死に習ったそうだ。

2人とももともと音楽の素地があったことから、この映画の役柄に違和感がない。

チェリスト役、オム・ジョンアさん

ジャズシンガー役、イ・ウンジュさん


イ・ウンジュさんは映画開始10分ぐらいのところで歌も披露していて、これが胸にしみわたるように妖艶で美しい。ためいきが出る。

この映画が公開された後、彼女は、京畿道城南市 盆唐のご自宅で自殺されたそうだが、映像はいつまでも美しいままのウンジュさんをわたしたちに伝えてくれている。なにが彼女をそこまで追い詰めたのか。重ね重ね悔しさとさみしさがあふれる。

この映画を観た方も、24年の人生を精一杯生きたイ・ウンジュさんを思い出して、またぜひ観てあげてください。あの日のままのウンジュさんがそこにいます。

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毒女 悦子

韓国映画をみてハッと胸をわしづかみにされたことありませんか?
悲しい時つらい時に韓国映画を見て、心がほんのすこし救われたことありませんか? しあわせを感じたことありませんか?

わたしはたくさんあります。

韓国映画のもつ奥深さになぐさめられたり、息もできない胸苦しさを覚えたり、一日中その余韻に浸ったり、夢の中まで追いかけられたり。 韓国映画に流れるあたたかいもの、残忍なもの、切ない永遠のものに、 ずっとずっと恋をしています。

同じ気持ちの人たちとつながっていたい。

アラフィフ。老後が心配。
でも死ぬまで韓国映画を抱きしめているぞ。

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