しびれる男の指南書!嵐を呼ぶ男だ、コン・ユ!

作品情報
●評価 4.0★★★★
●制作 2013年
●原題 용의자(容疑者)
●上映時間 137分
●監督 ウォン・シニョン
●脚本 イム・サンユン
●出演
コン・ユ、パク・ヒスン、チョ・ソンハ、ユ・ダイン、キム・ソンギュン、チョ・ジェユン、キム・ミンジェ、ソン・ジェホ、キム・ウイソン、ナム・ボラ
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あらすじ
チ・ドンチョル(コン・ユ)は脱北してソウルで車の代行で日銭を稼ぎながら暮らしている。彼はただの脱北者ではなく、北で鍛え上げられた国家機密を遂行する特殊工作員だった。キム総書記が亡くなる前、後継者をめぐる権力争いに巻き込まれたが、収容所を脱出してソウルに逃げてきた。
ドンチョルには身重の妻がいたが、同郷で同じく上級スパイだった脱北者リ・グァンジョ(キム・ソンギョン)によって殺されていた。愛する妻を殺したグァンジョに復讐するため、ドンチョルは一般の生活を送りながら彼の足取りを追跡していた。
そんなドンチョルを心配している男がいた。ヘジュ社の会長パク・コノ(ソン・ジェホ)である。車代行の仕事につく前、ドンチョルはパク会長の下で働いていた。ドンチョルが自分の息子と年が近いこと、同郷であることから、ドンチョルをとても可愛がっていた。
ある晩、ドンチョルが会長を自宅まで送って行った時のことだ。会長が自宅に侵入してきた男に殺されてしまう。ドンチョルは現場に居合わせたために警察から重要容疑者として疑われる。逃げるドンチョル。分かってきたのは、警察は単に会長殺人の容疑者として自分を追っているのではなく、会長が死ぬ間際に自分に渡したある物を奪おうとしていることに気がつく。
警察は、猟犬と異名のつくミン大佐(パク・ヒスン)まで投入して総出でドンチョルを逮捕しようとする。ミン大佐にとってはドンチョルは因縁の相手である。過去ドンチョルを取り逃がしたことで出世コースから外され、煮え湯を飲まされてきた。リベンジに燃えるミン大佐。
濡れ衣を着せられたドンチョルは警察包囲網の中、果たしてグァンジョを見つけ出し復讐を遂げることができるのか。会長から渡された物の正体が分かった時、会長の死、ドンチョルが追いかけられていた謎が解ける。ほんとうの黒幕とは誰なのか?!
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※以下はネタバレを含みます。このレビューはコン・ユとパク・ヒスンに焦点を当てて書きました。未だ観ていない方は読まないことをお勧めします。
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頭も目も混乱する作品。ウォン・シニョン監督、お願い。アラフィフも観てるんだから。
どちらかというと、苦手な分野でした。
スパイ系の映画は、ストーリーが簡単でないとついていけない私は、最初この映画を15分見た地点で、「ああ、もうダメかも」と思った。それぐらい展開が錯綜してついていけないのだ。メモをとっているのに、置いていかれるみじめさと言ったらない。
加えて、アクションシーンがてんこ盛りで、特にコン・ユが闘う場面は10秒にどれだけカット割りしてるのよ!?というぐらいカットが多く、しかも近撮(接近して撮る)だらけだ。つまり、目の前で逆さに吊るされた鶏が羽をバタバタとさせているような映画なのだ。瞬きする間に置いていかれる。
頭は混乱するは、目は疲れるはで、アラフィフ、よく最後まで観賞できたと自分をほめたい。
じっと我慢をして見ていくと、登場人物たちが会話を交わす中で説明を入れてくれたりするので、取り残された観客はストーリーの整理をすることができるのに気がつく。なので大きな心配はないのだが、それでもメモをとらなければアラフィフ脳の私にはこの映画、完全にアウトだったと思う。
これから観られる方は、よほどのハードボイルド、アクションスリラーが好きな人以外はご用心ください。
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静のコン・ユと、動のパク・ヒスン。対照的な二人が、それぞれ猛烈に格好いい!
1. 悶えまくるほど格好いい二人の男
この映画ついていけない!と泣いていた私がそれでもあきらめず最後までついていけたのは、ひとえに、格好いい二人を見ていたい!!! という健気(けなげ)さ以外にない。
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コン・ユとパク・ヒスン!
もう、この二人の男のかっこ良さといったらない!
高身長、甘いマスクでラブロマンスをやらせたら必ずヒットさせてきたコン・ユ。近所にいる格好いいお兄さん的な魅力がコン・ユの魅力だ。気どらない誠実さが日本の女性ファンを虜にしてきた。
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一方、パク・ヒスンも負けてはいない。コン・ユに勝る圧倒的な存在感があった。しじゅう煙草をくわえ、ぎらりと目をむいて周りをにらみつける。直観で動き、剛腕で相手をねじふせる。気に入らないものは壁に投げつけて唾をはく。そんな憎まれマッチョな役を演じていても、パク・ヒスンになぜか目が釘付けになってしまう。心をもっていかれてしまう。不思議な役者だ。
パク・ヒスンはこれまで地べたを這いずり回る犬のような悪役ばかりを演じてきた。非道、豪放磊落、無鉄砲でやんちゃというイメージがつきまとうが、実際の彼は人見知りで、ムダな所に感情的エネルギーを使わない冷静な人間だという。礼儀正しいことでも有名だ。
彼にとって「サスペクト」とは「セブンデイズ」に次ぐ特別な作品になったという。ミン大佐はただの悪役ではなく、自分という役者にある大切な何かを引き出してくれる大きな契機になったという。まったく彼に同感する。これは観終わった者にだけしか分からない。・
静のコン・ユと動のパク・ヒスン。
それぞれがそれぞれの立ち位置で、魅力が爆発している映画。こんなおいしい映画、他にはないだろう。
性格も印象も対照的な二人はいつもガチンコバトルなのだが、終盤にかけて同じベクトルに向いて共闘するという一番わくわくする展開になった。
監督、そうこなくちゃ。最高でした。
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2.息をのむカーチェイス! 町の中でこの撮影許可よく下りた。死人が出ないのが不思議。

二人がぶつかり合うシーンで目玉はやはり、派手なカーチェイス場面だろう。
この映画の渾身の作である。
これってあり?! よく撮影の許可が下りたね?
日本じゃぜったいに考えられない繁華街で車がぶつかりあったり、一輪車で走行したり、逆さになったり、大逆走したり・・・。大絶叫のまた大絶叫!
一人二人死んでいてもおかしくないんじゃないの? って迫力あるシーンのオンパレード。正直、カーチェイスで息が止まるぐらい感動したのは初めてではないだろうか。それぐらい圧巻でした。車って階段であれだけ走れるのね、目が点になる。この映画、一体、何台車をぶっ壊したのだろう???
ウォン・シニョン監督はえらい! 頭で理解できない奴は目で分からせてやろうって思ったのでしょうか。ビジュアルに楽しめましたほんとうに。
冷静に逃げ切るコン・ユ。地団駄踏んで悔しがるパク・ヒスン。
違いすぎる二人の性格がデッドヒートして、はらはらドキドキ。大いに見応えあった。
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俳優殺しのシーンがこれでもかと出てくる!
カーチェイス以外で、印象的だったのは3つだ。
①ミン大佐(パク・ヒスン)がスカイダイビングするシーン。
②工作員チ・ドンチョル(コン・ユ)が特殊訓練の一環で断崖絶壁でクライミングするシーン。
③同じくドンチョルが北朝鮮で絞首刑を受けるが、両肩を外して脱出するシーン。
いやはや、どれも人間技じゃなかった。
もちろんCGが加えられているだろうとは思うが、出来た映像の迫力といったらなかった。これはすごかった。
1.スカイダイビングのシーン(パク・ヒスン)
パク・ヒスンはインタビューで、まず台本を読んで「どうやってこれを撮影するのだろう?」と不思議に思ったという。今までの常識ではありえないシーンの撮影ばかりだからだ。
しかも、スカイダイビングのシーンをロケ初日に撮ることから、「初日からスカイダイビングとは・・・死ぬかも」と覚悟したらしい。冗談ではない。それぐらいこれは真っ逆さまに地上に落ちていく姿は身震いするシーンだった。しかも、泣く子もだまる教官ミン大佐役である。誰よりも猛々(たけだけ)しく演じなければならない。内心、生きた心地がしなかっただろう。
(パク・ヒスンのインタビュー記事は、こちら)

ミン大佐は助けに行く
2.断崖絶壁をクライミングするシーン(コン・ユ)
北朝鮮の工作員であるチ・ドンチョル(コン・ユ)たちは厳しい訓練を乗り越えていかなければならない。その訓練の一環としてあるのが、断崖絶壁を命綱なしでクライミングするという訓練である。彼はこの訓練もクリアし、特殊工作員の中でも最高レベルと言われる精鋭部隊の一員になっていく。

ぼろぼろ落ちてくるし、危険がいっぱい
3.絞首刑から脱出するドンチョル(コン・ユ)

この後、ドンチョルはみごとに絞首を解いて脱出する
コン・ユは、すべてのシーンをノースタントでやり遂げたそうですが、これは監督に強いられたことではなく、自分から進んでやったという。これほど孤高で強くかっこいい、そして、これでもかと権力者に残酷にいたぶられるコン・ユの姿は後にも先にもなかなか見られることはないと思う。
彼の役者根性といい筋肉美といい、驚嘆するものを感じます。
コン・ユのインタビュー動画は、こちら。
韓国語オンリーですが、だいたいの雰囲気はつかめます。
「サスペクト」はまさに大作でした。
常識ではありえない撮影をやりとげる監督ウォン・シニョン。
次にメガホンを撮るのが待ち遠しいです。
ハードボイルドもたまにはいい。
強く思いました。
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