パニック

ゾンビに愛着がもてなくて困った!「ソウル・ステーション/パンデミック」(2016) ヨン・サンホ監督

2020-02-28

監督、まじっすか?「新感染」の前日譚でこのパンデミックぶりはありえない!

作品情報

  • 評価 3.0★★★
  • 制作
  • 公開 韓国:2016.8.18
  • 上映時間 92分
  • 原題 서울역(ソウル駅)
  • 監督 ヨン・サンホ
  • 脚本 ヨン・サンホ
  • 出演
    シム・ウンギョン---ヘスン
    イ・ジュン---キウン、ヘスンの恋人
    リュ・スンリョン---ソッキュ、売春宿の親父
    ファン・ソクチョン---旅館女主人


あらすじ(ネタバレなし)

ソウル駅で寝泊まりしているホームレスの老人が肩から血を流して倒れていた。同じホームレスの弟は兄を助けようと奔走するが、警備員も周りの人もホームレスだと知ると冷たくあしらう。兄は力つき、ひっそりと息を引きとった。そして弟が目を離したほんのわずかな間に、兄の死体は忽然と消えていた。

旅館で目が覚めたヘスン(シム・ウンギョン)は、心から後悔していた。親元を飛び出し、だまされて売春宿で働かされていたところをキウン(イ・ジュン)に助けてもらったが、行く当てもお金もない。恋人キウンは、苦肉の策としてわたしに売春をして稼いでもらいたいらしいが、もう体を傷つけることはしたくなかった。宿の女主人からは今日中に宿代が払えないと追い出すと言われている。一体どうすればいいのか。

一方、キウンだが本当にヘスンに売春をしてもらいたいわけではなかった。売春をするふりをして客から財布をぬきとりさえすればいいのだから。ある男から売春の問い合わせがあった。行ってみると、ヘスンの父親だという。キウンはヘスンの売春を呼びかけたとして父親ソッキュから何度も殴られる。二人で旅館に行くが、ヘスンは外出しているようだった。

隣りの部屋で音がしたのでソッキュが振り返ると、何者かが男に襲いかかっていた。キウンが叫んだ。「おばさん、なにしてるの!?」 旅館の女主人が狂ったように客の人肉を食べている。女主人は二人を見つけると、動物のように跳びかかってきた。二人で必死に逃げ、部屋の窓から脱出する。まるで映画に出て来るゾンビ映画のようだ。

外にはゾンビと化した人間が生肉を求めて多数さまよっている。二人はヘスンのことが心配になり、ソッキュの車で街にヘスンを探しにでかける。一方、ヘスンもまたゾンビに襲われ大変な目に遭っていた。ゾンビに噛まれた人間はウイルスが感染し、凶暴化していくことを感じていた。感染の根源は何なのか?! どこへ行けば身の安全を確保できるのか? 何も情報がないままヘスンはホームレスのおじいさんと街を逃げ回っていた。

ヘスンは果たしてどうなるのか?!お父さんと恋人キウンに無事再会することができるのか? 「新感染 ファイネルエキスプレス」のヨン・サンホ監督が同作品の前日譚として送るゾンビ狂騒曲。ゾンビファンなら喜ばない者はいない。日本と韓国で活躍するシム・ウンギョンがヘスンの声を、「カプトンイ」のイ・ジュンが恋人キウンを、中年女性のハートを瞬殺する色男リュ・スンリョンがソッキュの声を担当したことで話題の作品。



※この先は、ネタバレが含まれます。未だ御覧になってない方は読まないことをお勧めします。


まずは良かったところ。国家という巨大権力 Vs. 一般市民、女性という視点

1.娯楽ゾンビ映画ではなく、ゾンビを使った韓国社会にたいする風刺

ゾンビに感染していない一般市民を銃殺する国家権力

楽しめたというか、挙げるとしたらここなのかなと思うシーンを挙げたい。

この映画、「隣りのゾンビ」みたく、ゾンビ自体に魅力がある映画ではない徹頭徹尾、おっかなくて野生動物そのもののゾンビだ。動物の中には愛嬌や愛想があるのがたくさんいるが、これはただの人間の生肉大好きな無情ゾンビ軍団である。

この映画の特徴は、ゾンビの悲哀をフォーカスしたものではなく、ゾンビをとりまく韓国社会にフォーカスを当てたことだろう。娯楽ものというよりは、政治的社会的に無関心でいられない要素が含まれている。

とくに、ゾンビ化していない一般市民がたくさん取り残されているのに、彼らを助けようとせず、銃殺していく警察隊のシーンはひどい。ゾンビ人間爆発のせいで、首都の交通機能も政治も麻痺する。危機的状態に落ちた街へは首都防衛司令部からの精鋭特攻隊が送り込まれる。つまり戒厳令がしかれた1980年代の光州事件のように、政府が無辜の市民を公益保全という大義名分をつけて公然と処刑していくというとんでもない状態になることを、この映画は暗に批判している。


わたしにはゾンビがどうのというよりは、政府がこういうパニックに乗じて人々の人権を簡単に蹂躙していく様が怖く感じた。

後ろをゾンビに、前を銃を構える特攻隊に囲まれた群衆の中では、諍い(いさかい)が起る。
一人の男性が、

「こんなところで死ぬのはイヤだ。俺はおまえらとは違うんだ。俺がどれだけ国家に尽くしてきた人間だと思っているんだ」と特権意識をちらつかせる。自暴自棄がそう言わせるのか、本当に彼は特権階級にいたのか。それにしても空しい。

しかし、ホームレスのおじいさんが彼を遮ってたしなめる。

「わしだってそうだ。
 国のために尽くしてきた。
 そのオレがどうしてホームレスになったと思う? 
 この国家は国民のことなんか大事にしないんだよ。
 なのに俺たちは命をかけて尽くしているんだよ」と叫ぶ。

この言葉にわたしは監督が言いたかったことが込められているような気がして、しばらく言葉がなかった。
おじいさんはその後、だから俺は生きたいんだ。死にたくない!と言いながら警察隊の前に出て、銃殺される。

「違法な集会への参加は禁止されている」と警察は連呼してゾンビと闘っている市民に銃を向けるが、それはまるで光州事件の一幕を見ているようだった。必死にゾンビから身を守ろうとした一般市民が哀れで仕方がなかった。前には警察官がいて銃をかまえている。後ろには鼻息荒いゾンビどもが跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)しているのだ。進むも地獄、戻るも地獄だ。

武装した警官が丸腰の市民を、狩りを楽しむように殺戮を繰り返す光景は、異様だ。


よって結論。
これは、ただの娯楽ソンビ映画ではなく、政治的に思想的に考えさせられる要素があったりして、その意味でとても深いのである。

2.社会的弱者。売春女性にたいする視点。ヘスンをめぐるクズ男ども。

正直、ゾンビにも愛着がわかないし、登場する主人公ヘスンにもまったく愛着がわかないので、どうしたもんかと困った。シム・ウンギョンさんが声を担当していたから、もう少し楽しめるかと期待したんだが。

家出をしたヘスンが裏社会につかまり売春させられていたが、キウンに脱走を手伝ってもらって逃げてきた。旅館に隠れている内に、街がゾンビウイルスに侵されて、ヘスンもパニックの中に巻き込まれるという話だが、このヘスンさん、どうして家出したのか背景が全くわからないから気持ちの投入もできない。おまけに、めそめそ泣いてばかりでイライラくるのだ。ごるらー!

そして、極めつけはこのヘスンをめぐる男どものクズっぷりだろう失神するかと思った。

「ぐぎゃー。家に帰りたい」泣いてばかりいるヘスン

ヘスンは確かに魅力的な女性ではない。

ゾンビと闘いながら、勇気をふりしぼってジャンヌダルクのようにアップグレードしていくのかなと期待したが、それもなかった。しかし、だからといってそんな彼女を貪り(むさぼり)つくそうとする売春宿の親父ソッキュや、再度売春させようとした恋人キウンも実は情けなかった(最後、ヘスンをかばって死んでしまったがのう)。ソッキュがヘスンの実父だとばかり思っていた観客は、彼こそは売春宿でヘスンを蹂躙していた当の鬼畜だと知って仰天してしまう。

この世は悪党ばかりか。ヘスンは、「不幸女」の名誉を抱いた看板女優になってしまう。いよ!


家出、売春、貧乏、その日暮らし、女性。

女性を社会的弱者とカテゴライズするのは好きではないが、監督がこの映画の主人公にこういった要素を盛り込んだのは、それが社会の中で見過ごしてはいけない痛みであるからだ。そういう思いがあって、一種の社会的、政治的批判をアニメを用いてやりのけたかったからのではないだろうか(推測!)。それは実写では叶わないがゆえに。ゾンビにまず最初に感染した対象として「ホームレスのおじいさん」をもってきた点からもそれは感じる。

みなさーん、監督のこの気概をくみとってあげてつかーさい。

発展する社会の影でいつも取り残されるのは、ホームレス、女性、子供等、社会の底辺にいる人間ばかりだ。彼らは国家からすればゾンビと同じように扱われる。

痛快爽快!もしかして監督、最後のシーンは最高に力を込めて作ったでしょ?!

ゾンビヘスン誕生ー!復讐してやる!

このエンディングって、監督が最も力を入れたところだったって信じたい!

世の中の憂さという憂さが吹き飛ぶくらい手を叩いて笑ってしまった。もーさいこうに面白くてならなかった。


わたしはヘスンのことをずっと泣いてばかりのアップグレードしない女と前述したが、実は彼女、最後の最後で別な種類のアップグレードを果たしている。それは、人間としての成長という意味ではなく、「ゾンビに感染する」という意味で。

売春宿で自分を貪りつくし、恋人キウンを殺し、ヘスンが気を失った最後の瞬間でもヘスンを強姦しようとした鬼畜ソッキュにたいして、彼女が放った精一杯の抵抗こそは、(自発的ではないが)ゾンビに感染して獣と化し、悪党ソッキュに襲いかかってこれを生きたまま食い散らかすこと。ソッキュの断末魔の叫び声が何ともいえない哀れを誘って止まなかった。うひひっひ。悶える!


うぎゃー!なんて面白いんだろうこの映画。弱者の最高のリベンジじゃないの?!

そうよね。
女はみんなゾンビになって、クソ男どもに仕返ししなきゃだわ。
うん。そういう映画なのよきっとこの映画って。

ってことで、
オチのあるうちにレビュー終わりにしまーす。

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毒女 悦子

韓国映画をみてハッと胸をわしづかみにされたことありませんか?
悲しい時つらい時に韓国映画を見て、心がほんのすこし救われたことありませんか? しあわせを感じたことありませんか?

わたしはたくさんあります。

韓国映画のもつ奥深さになぐさめられたり、息もできない胸苦しさを覚えたり、一日中その余韻に浸ったり、夢の中まで追いかけられたり。 韓国映画に流れるあたたかいもの、残忍なもの、切ない永遠のものに、 ずっとずっと恋をしています。

同じ気持ちの人たちとつながっていたい。

アラフィフ。老後が心配。
でも死ぬまで韓国映画を抱きしめているぞ。

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